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それにしたって、北条たちはまだ着かないのか。

辺りに誰もいないことを確認してから腕時計に視線を落とす。
時間はまだ大丈夫だが、そうのんびり出来るようほどの余裕があるわけでもない。

ここから正門までは、裏門に比べて遥かに距離がある。正門から学園内巡回バスを使ったとしても、裏門から歩きで来た俺たちよりも時間がかかるということは明白だろう。

この学園の敷地の広さは半端ないのだ。


「兄貴さ、生徒会長って好きでやってるの?」

晴は未だに俺が生徒会長だったということにショックを受けているのか、浮かない顔で尋ねた。


「好きで、って。そんな楽な仕事でもないけどな」

「兄貴には内申とか評判とか関係ないでしょ、辞めなよ会長なんて。わざわざ兄貴がやらなくたっていい事だ」


丸めて握ったパンフレットはその握力の強さに潰れている。真剣な眼差しで俺を見つめ、まるで説得するように語りかけてくる晴に返す言葉を失った。

なぜそんな事を言いだすのか、俺には全く見当もつかなかったが晴のその瞳を見れば冗談で言っているわけではない事はわかる。
それにしたって会長をやめろだなんて、転校してきた初日に大真面目な顔をして言う言葉じゃない。

何かわけでもあるのか。

俺が会長であることによって晴に迷惑がかかる事を懸念しているのなら、あらゆる手を使ってでも最小限に抑える。
完全に、とまではいかないだろうが、俺だって晴には出来る限り普通の学園生活を送らせてやりたいと思っているのだ。

なんと答えるべきか。
返す言葉に迷っている時、唐突に晴は腕を広げて、そのまま俺を抱きしめた。
晴の体温が服越しに伝わってくる。


「お、おい…晴?」

「…心配してるんだよ。雑用で、いいように使われて、何か問題があれば全部兄貴のせいになるんだよ?会長なんてやって欲しくない、肩書きなんて俺の兄貴だけでいいじゃん。会長なんて辞めろよ」

震える声が、吐息が肩口にかかる。
首元に鼻を埋めるようにしてくる晴はまるで甘えたがりの犬だった。


晴は単純に俺を心配してくれているだけだった。
何年たっても晴は自分の事より俺を心配するような、かわいい弟だった。

ふわふわ揺れる髪の毛が頬をくすぐった。晴の頭を優しく撫でて目を細める。
晴には悪いけれど、俺は会長をやめるわけにはいかない。

「ん、ありがとな。でも俺は1人じゃない。支えてくれる仲間がいるから大丈夫だ」

心配しなくていい。晴の肩を掴んでそっと身体を離すと現れるのは不服そうな顔。
思わず笑うと、晴は不機嫌に顔をしかめて小さく、馬鹿じゃん。と呟いた。


晴の言う通り、俺は馬鹿なのかもしれない。
結局、2年前に俺を役員に引き入れたあの男の思惑通りに全てが動いているのだから。


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