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「基本の規則やシステムは東葉とあまり変わらないと思う。生徒の自由が重んじられて、自立性やら責任感やらそう言ったものを育みたいらしい」

「つまり?」

「つまり、全部自分たちでやれ。ということだ」


学園のパンフレットを眺めながら歩く晴に、前を見て歩かないと転ぶぞ。そう忠告すると晴は曖昧な返事をして、パンフレットのページをめくった。

息を吐く。
全く人の話を聞いちゃいない。一層の事転んでしまえ、と隣を歩く晴を睨み付けると、不思議と気配でか、その視線に気がついた晴は誤魔化すように笑みを浮かべた。


「金持ち学校って好きだよね、自由とか自立性だとかそういう謳い文句」

「それは偏見だろ。刑務所みたいな金持ちの学校もごまんとあるだろうし、それに比べたらまだマシだ」

「まあ確かに。東葉と違ってそこまで治安も悪い感じしないし。悪くないんじゃない」


「いじめられなくて済みそうで安心した」晴はそう言って伸びをした。
まさか、晴がいじめられるわけがない。何を阿呆な事を言ってるんだと呆れ顔でため息をつくと、晴は不思議そうな顔をした。


「いくら顔がよくても、いじめられる事だってあるんだよ?」

「顔の話してるんじゃねえよ。お前、仮にも生徒会長の弟だぞ。そんな事したらいじめた奴はどうなるかなんて分かりきってんだろ」

わざわざ晴が弟だと俺が公言しなくても噂は勝手に出回るだろう。顔はあまり似てないが浅葱なんて苗字はそうない。

それになにより2人並んで歩く、現在のこの光景こそが説得力を増す一つの材料となる。
まあ、実際はただ単に転入生を案内しているだけなのだがそんな事は噂する側からしたら些細な事だろう。


現にすれ違う生徒たちは皆こちらに目を向け、ひそひそと噂話をするように声を潜めている。


誰あいつ。
会長のなんなの?


晴へ向けられる疑念と、嫉妬と、不審が入り混じった濁る瞳は、早ければ数時間後には熱を帯びた輝くものに変わる事だろう。

あの会長の弟だと、晴は一躍時の人となる。



しかし隣を行く当の本人は目を丸くさせ、アホみたいに口を半端に開き呆けている。
なんだその締まりのない顔は。
顔をしかめてなんだと問えば晴は一度口を閉じ、取り繕うように笑った。


「は…?生徒会長?…誰が?」

「俺が。お前はその会長の弟」

「は?……はあ?」


晴の顔から今度こそ消える笑みに、そういえば話していなかったかと考える。
しかし予め話しておくべきような重要なことでもないだろうに。


俺の思いとは裏腹に何故か顔を青くさせる晴に、別にお前が不便になることはないだろうと言えば、そういう事じゃない!と理不尽に怒られた。

その勢いに一瞬怯むが、一体何をそんなに怒っているんだ。
何やら神妙な顔をして俯く晴を不信に思いながらも、ようやくたどり着いた目当ての建物を前に足を止めて息を吐き出した。


「着いたぞ。特別棟だ。ここに理事長室がある」


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