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腕時計が示す時刻は、約束の時間から既に20分は過ぎていた。
裏門に辿り着こうが正門に辿り着こうが、どっちにしろあいつは遅刻している。
時間も守れない上に約束の場所まで間違えるとはとんだ阿呆である。これは顔を合わせたら説教をしてやろう、今決めた。
そんなことをふつふつと考えながら歩いているも、ようやく裏門が見えてきた。
「あっっ!!お兄ちゃーん!こっち!」
「お兄ちゃん……って…」
門の向こう側、張り付くようにしている不審な男が一名。男は俺の姿を見つけると声を張り上げた。
キラキラと輝く瞳と嬉しそうに俺を呼ぶその表情ときたら…ほんっとーに…こいつは…。
「兄貴!久しぶりだね!」
「っ…はあ。17になってもこれか…」
「再会のぎゅーとちゅーは?ってかこの門開けて?」
「帰っていいか?」
俺の言うことなんてひとつも聞かず、早く早く!と急かす男に、もはや返す言葉もない。
本気で門を開けるか悩んだけれど、こっちは俺に任せろと北条に言い切ってしまった手前、逃げることはできない。
それに早くしないと授業が始まってしまう。
それは普通に困るので、渋々と守衛のおじさんに声をかけて門を開けてもらうことにした。
低い地鳴りのような音を立てて門が開いていく。
その様子を遠巻きに眺めながら、そういえばどれくらいぶりだろうか。とふと疑問が浮かんだ。
「兄貴!3年ぶり!」
その答えはすぐに彼が言ってくれるわけだが。
男は門が開くなり隙間を縫うようにこちらへ駆けてくる。そして彼は飛びつくように抱きついてきた。
反射的にそれを受け止めようと腕を広げるが、思ったよりも大きい身体と衝撃に耐えられず、体勢を崩して尻餅をついた。
事故とはいえ、覆いかぶさるようにしている男に体がこわばる。
フワリと香る知らない匂い、
あまり俺と変わらない体格。
その顔は知っているはずなのに、まるで知らない男のように感じて、慌てて顔を逸らす。
俺が知るこいつの姿はもっと小さくて、ひょろひょろとしていたのに。
3年という月日がまだ10代の俺たちにとって、どれほど長く、そして一瞬の重要な時間なのか。この一瞬だけで痛いほどに感じた。
「3年…そうか、そんな経つのか」
「どう、俺。大きくなったでしょ、カッコよくなったよ」
「…ああ、びっくりした。デカくなったな、晴」
はる。昔呼んでいたようにそう呼ぶと、嬉しそうに笑う。
浅葱晴(あさぎ はる)、一つ離れた俺の実の弟だ。
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