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それにしても、案内人とやらはいつ来るのだろうか。
携帯の時間を確認するのはもう何度目になるだろう。転校初日から遅刻なんてそんなデビュー果たしたくない。
もうこれ、向かっちゃダメかな。場所はわからずとも道を辿って行けば、案内の人といつかは鉢合わせになるだろうに。
鍵あいてたりしないかな、と門を揺らしてみるが、当たり前にピクリともしない。
この門の大きさじゃ手動ではなく自動になっているのだろうか。さすが金持ち学校は一味も二味も違うな。
まあ開かないなら乗り越えればいいだけ……乗り越える?
「そ、それだ!!!」
このくらいの高さなら乗り越えることは可能だろう。
不法侵入だとかそっち系で少々問題はありそうだが一応転入許可書はあるので不法侵入…にはならない…と願うしかない。
緊張からだろうか、妙に興奮して汗ばむ手を握る。
よし、そうと決まれば決行だ。
大きく振りかぶり鞄を門の上空めがけて投げ飛ばすと、ボスン、と音を立てて鞄が向こう側に落ちた。
よし、次は俺の番だ。
メガネを外して折り畳み、胸ポケットに突っ込んだ。
緊張から汗ばむ手のひらを、ごしごしズボンで拭う。
よし、準備は万端だ。行こう。俺の新しい青春の舞台となるこの学園の敷地内へ!
門を両手で掴んで、地面を蹴り上げるようにぐっと飛び跳ねた。
*
「はぁ、はぁ…きっつ…なんだこれ…めちゃくちゃ高い、きつい、しんどい、手が痛い…高い…」
ようやくたどり着いた門の頂上で大きく息をついた。赤くなってしまった手のひらをぎゅっと握りしめる。視界の半分を覆う前髪(かつら)をかき分けてから辺りを見渡した。
自分のことで精一杯すぎて気がつかなかったけれど。すごい、絶景だ。
塀の内側は草木が生い茂って、門から真っ直ぐ伸びる道は遠くまで続いていた。
大きな噴水があって、その周りにはベンチや自動販売機なんかも置いてあるではないか。ここは公園か何かなのか?
面食らいながらも噴水の先をもう少し行ったところを目で追っていく。
噴水を通り過ぎた先には俺の目線よりもはるかに高い建物がある。
それは横にも広くまるで翼を広げた大きな鳥のシルエットだ、あれが校舎だろうか。
いやそれにしては広すぎではないか?それに他にも似たような建物はところどころに点在しているようで、そういえばこの学園は高等部だけではなくて初等部から大学部まであったのだと深いため息をつく。
まるで夢のようだ、どこまでが敷地内なのか、ここからではどこまで続いているのか全ては見えない。
とにかくわかったことは、この学園は馬鹿でかい規格外の大金持ちの学校だってことで。
「なにをなさって…いるのですか?」
不意に声が下方から聞こえてきた。
案内人が今頃やってきたのだろうか、まさかこんな場所でただの通行人というわけではあるまい。
4.5メートルほど下、地上で眩しそうに俺を見上げる人物を見下ろす。
太陽の光が反射して色素の薄いミルクティ色の髪の毛がキラキラ光っていた。
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