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車からゆっくり降りて、目の前にそびえ立つ大きな門を見上げた。

天まで届きそうな門…空は青く澄み切っている。


なんだろう、国境かな?俺は今国境を前にしているのかな?
その門の高さと敷地を囲うような塀の高さに目が点になる。

門の隙間から見える敷地内は、綺麗に真っ直ぐに広く敷石が置かれ、剪定された木や草花が植えられている。
そして不思議なことに校舎はどこにも見当たらないのだ。やっぱり国境なのだろうか。


「案内の者と送迎バスが直に来るでしょうから暫しお待ちくださいませ」

「あっはい!ここまでありがとうございます!」

「いえ、それでは失礼致します」

一礼を残して車は去っていく。小さくなっていく車体を、見えなくなるまでずっと見つめていた。



俺の名前は響 巡流(ひびき めぐる)、この春高校2年生に上がると同時に叔父が理事長を務めてる私立学園の高等部に転校することになった。

少し現在の俺の状態を説明しようと思う。
母さんのお母さん、つまり婆さんがイギリス人だった俺は所謂クォーターってやつで、生まれつきの金髪と青い瞳がトレードマーク…のはず、だったんだけど。


「…これはないだろ、叔父さん…」

半分以上隠れた視界と、慣れない眼鏡にそわそわ体を揺する。
叔父さんが用意していたのは、変装グッズとやらだった。

昭和のお笑い芸人でもしないような、もじゃもじゃのカツラと瓶底眼鏡。瓶底っていうくらいだからレンズが普通のものよりも厚く、正直視界は最悪。
その上、視界の半分を覆うほど毛足の長いもじゃもじゃカツラ。見えにくいどころじゃない、もはや見えない。視界ゼロです。


叔父さんがこれをわざわざ用意して学園内に立ち入る前に車内で装着せよ、と手紙とともに寄越してくれたのにはわけがある。
どうやら俺の容姿が問題、らしい。

詳しい理由は聞いていないがなにやら深い事情があるらしい。変装しなくちゃいけないような深い事情ってなんなんだ。

「つけるけどさぁ」


何しろここで叔父さんの言うことは絶対なのだ。
嫌だと跳ね除ける事も出来なくはないが、どうやら俺の身を案じてのこのツーセット。
大好きな叔父さんの気持ちを無下にすることは、俺には出来なかった。

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