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「赤城先輩、二年時に転入してきたって言ってましたよね。そこからどうやって今の…隊長の地位まで上り詰めたんですか?」

「……」

「そもそも、どうして滝真の親衛隊に入ろうと、思ったの?」


裏の顔も、その動機も、本当の姿も全部全部。隠していた全てを暴いて、そうしてもう二度と滝真の隣に立てなくなればいい。
胸の内側にどろどろとして暗く濁った感情が渦巻き全身を支配していく。
滝真に親衛隊なんてものは必要ない。ましてや下心を抱いた薄汚いその視線の下に晒すなんて以ての外で。

赤城を問いただす自分の声が微かに震えていたのは、演技でも何でもなかった。怒りと、焦りと困惑と、いろいろな感情が綯い交ぜになって、胸の奥で締め付けられるような苦しさを感じていたせいだろうか。
今日はいつもより感情の抑制が効かない、それはこの暑さにやられたせいか、それとも祭りの雰囲気にあてられたせいか。ふと清原先輩の言っていたことを思い出す。この祭りで神様が上に帰る際に願い事が叶うとか、なんとか。それならば通常では考えられない行動を起こしたのは、俺に神か何かでも乗り移ったか。神がもし俺に味方してくれているのであれば、滝真の身も心も俺のものになればいいのに。そんな馬鹿げた事を考えて鼻で笑い飛ばした。

何にせよ滝真に対して、今までひた隠してきたものを一部分だけとはいえど、隠すことも、誤魔化すことさえもせずに、ただ愚直すぎるほど真っ直ぐに正面からぶつけてしまったのだ。当然の如く、滝真は知らない俺の様子にひどく戸惑い困惑した。その兄の様子を思い浮かべて、大変なことをしてしまったという実感に胸が詰まる。
何かのせいにしたい気持ちもあった。暑さのせいに、それでなければ神のせいにでもしてしまいたかった。けれどそれに反して、これは自分が選び行動した結果なんだという覚悟にも近い感情が大きく俺を支配していたのだ。



「赤城先輩は、…何を、企んでいるんですか」

赤城は俺の問いに答えはしなかった。否、答えることができなかったと言った方が正しいだろうか。


別に俺の質問に馬鹿正直に答えるとか、そんな事は初めから期待なんてしていない。
この質問を録音したものをばらまくことで、初めて生徒たちの間に親衛隊の、赤城夾という存在に対しての不信感を植え付け煽ることになるのだ。例え赤城がどんなにうまいこと答えようとも、二年時に転入してきた男がたった1年で親衛隊長にまで上り詰めるということの異質さには拭いきれない嫌疑と不審が残って当たり前だろう。
そうして少しずつ生徒会長親衛隊は崩れていく。少しずつ、欠けていくように。そしていつの日にか、まるでせき止められた水が一気にあふれるよう、ダムが決壊するように、いとも簡単に壊れていく。…そうしてやっと、生徒会を崩す一つの足がかりとなるわけだ。

「滝真に危害を加える気なら、俺は見過ごせません。俺はあんたを、」

「晴くん。あいつに、滝真に味方はいると思う?」

黙り込んでいたかと思えば急に何を。
赤城はつい先ほどまでの鬼のような形相からは一転して至って冷静な様子で淡々と話し始めた。この調子では本性を暴くという目的は遠のいたか、やはりそう簡単な相手ではなかったかと眉をしかめる。先ほどの崩れかけた仮面に更に追い打ちをかけてやれば簡単に剥がれていくかという当たりをつけたのは些か考えが甘かったようだった。

「……話を逸らそうとしても、」

「あいつに味方なんて、どこを探してもいない。古くからの同級生も、友人も、同じ生徒会のメンバーも。そして、実の弟でさえも」

随分と冷めた目で赤城は俺の胸を人差し指で指す。トン、と軽く触れた指先に全身の血が沸く。
この男は、どこまでも煽ってくれる。全身で感じる強烈な感情、それは紛れもなく、怒りだった。


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