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「流石に買いすぎじゃないか?本当にそれ全部一人で食べるつもりか」

「まさか!兄貴と赤城さんにも分けるよ」

晴の返答にそういう事じゃなくてだな、と呆れる。
屋台の並ぶ道を人ごみに紛れながら進んでいると、気が付けば道幅は広くなり、辺りには木々や草花が生えた場所に入った。人に流されるままに雑談を交わしながら歩いていたらどうやら気が付かぬ間に抜けて小さな公園に入っていたようだ。

「あっれ、端の方まで来ちゃった?」

「…本当だ、もうこの先はなさそうだな」

先ほどまで隙間もないくらいぴったりと続いていた屋台も、ここでは隣同士の間が広くなり疎らになって、少し先にある焼きそばの屋台を最後にその先は何もなくただ広い広場につながっていた。
ここが端か、小さな祭りだと聞いてはいたけれど意外と出店は多かったし人だってそれなりにいたような気がする。兎にも角にも、これで祭りの端から端まで来た、ということになるわけだが。一つ、気がかりなことがあるのだが覚えているだろうか。赤城夾という存在を。


「なあ……ここに来るまでに赤城見たか…?」

恐る恐る尋ねる俺に、晴はもはや悪意でもあるのではないかというほど満天の笑顔で答えた。

「いや、まったく」

「……。…ったく、仕方ない、連絡してみるか…。」

こうなっては仕方ない。ここまで来ても出会えないという事は完全に逸れたとみて間違いはないだろう。ほぼ一本道でどうやったら出会えないのか甚だ疑問ではあるけれど。

ベンチや石階段に腰を落として休憩をする人達の姿に、俺たちも少し休もうと空いている石階段を指さす。
ここに来るまでに屋台の人たちに誘われるがままに買った戦利品を両手にした晴が、端へ寄って行くその後ろを付いて行く。赤城と加賀谷達に連絡するべく、ポケットに手を突っ込んで携帯を探しながら。


「お好み焼き食べる?」

「いや、赤城に取っておいてやれ。流石に可哀そうだ……ん、?」

「どしたの?」

「……携帯、置いてきた」

探せどもポケットの中身は空っぽでしかない。
顔を青くして言う俺に対して晴は割り箸を割って、興味なさそうにふうん、と相槌を打った。心の底からどうでもいいといったその様子に、お前はもう少しどうにかならないのかと眉間に皺を寄せるが、そもそも俺が携帯を置いてきたのがいけないのだ。晴に八つ当たりをするなんてどうかしていた。一旦自分を落ち着かせて冷静になる、お好み焼きを一口サイズに割って食べ始める晴に無言で手を差し出すと晴は何を思ったのか、笑顔で手招きをした。

「隣座ってよ、あーんしてあげる」

「阿呆、お好み焼きじゃなくて携帯だ。赤城の番号までは入ってなくても加賀谷の番号くらい知ってるだろ」

「なんだ、そっち。持ってきてないよ俺も」

「はあ?」

お好み焼きを頬張る晴は嘘じゃないよと言いながら両ポケットを叩いて見せた。

「何のための携帯だよ…」

「はは、説得力ねーの」

「俺は忘れただけだ。そもそもお前が……」

「はいほらあーん」

「んぐ、」



文句を吐き出さんとする口を塞ぐようにお好み焼きが押し込められる。いたずらっ子のように笑う晴を更に叱ろうとするが思いのほか一口が大きい、口を開くこともままならないままただ黙って租借をした。
口いっぱいに押し込められたお好み焼きは少し冷めてはいたけれど、大きめにカットされたキャベツの大胆な食感と生地の柔らかさの組み合わせが良く、程よい量のソースとマヨネーズが絡み合ったお好み焼きは非常に美味しかった。


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