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いざ人ごみの中に自分たちが紛れて行くと予想していたよりもずっと人が多く、その密度の高さについ閉口した。
すれ違うのにも肩がぶつかってしまいそうなほどの混雑具合にやはり赤城を先に行かせたのは失敗だったかと思う。この混み具合ではすれ違う人の顔なんていちいち確認できないし、加えて俺たちにはどこに何があるかの地理的な情報もゼロに等しい。なんの連絡もなしでの合流なんてもってのほか、絶望的だろう。こんな事なら待ち合わせ場所でも決めておくべきだった。

余程怪訝な顔でもしていたのだろうか、俺の手を引き前を歩く晴が、顔だけ振り返って大丈夫?そう首を傾げ尋ねるのに小さく頷いて応える。晴はおかしそうにふっと笑うとまるで安心させるように、握った手に力を込めた。


「こうやって二人でお祭り回るのっていつぶりだっけ」

「…そうだな。小学校上がってからは大体秋がいたし。最後がいつだったかなんてもう覚えてない」

「秋と三人で回ってると大体誰か逸れるんだよね」

「誰か…っていうか、大抵はお前がふらふらどっか行って俺と秋で探し回ってたろ」

まさか忘れたというのか。あっけらかんとして言う晴の様子にこいつは…と呆れる。
ほぼ毎年といっても過言ではないだろう、俺と秋が目を離した一瞬の隙に晴は俺たちから逸れ、そしてそこから俺と秋による大捜索が始まるのだ。
地元の祭りは大した規模のお祭りではなかったからすぐ見つかるかと思いきや、なかなか晴は見つからない。そうして小一時間、焦りと不安と嫌な予感で胸がいっぱいになった頃、晴は狙ったように現れるのである。もちろん、半べそ…いや、大抵は大泣きをしながら。


「俺を見つけるのも大抵は兄貴だったよね」

秋は昔からぽんこつ。馬鹿にしたように舌を出し言う晴に、お前が言うなと思う。
昔っから人騒がせで、人一倍手のかかる弟なのだ。俺も秋も、晴には随分と振り回された。それも、今となってはいい思い出…とも、言えるのだろうか。また、三人で遊びにでも行けたらいいと思う。
今も病室で一人でいる秋を想う。夏が終われば退院だと言っていた。そうなればまた少しずつ、同じ時間を過ごせる。…秋が帰ってくるまでに、やっぱり生徒会をどうにかしなければいけないな。突如として襲う憂鬱に息を吐いた。


「あ。そこの屋台、飲み物売ってるって、どうしよっか」

「赤城、あいつどこまで行ったんだ…」

「人すっごいね、気が付かないですれ違っちゃったかな」

晴は辺りを見渡しながら言うけれど、流石にすれ違ったら気が付くはずだと思うがしかし、断言できるほどの自信もない。
まあ、少し探しても見つからなければ携帯に連絡が来るだろうし、そうしたら人の少ないところを探して待っていればいいだろう。
いい加減喉が渇いて仕方がない、先に探しに行ってくれた赤城には申し訳ないけれどここで一度休憩させてもらおう。
晴は俺の手を引いたまま脇に逸れて、屋台の親父さんに飲み物を一つ、頼んだ。



「あ、あっちの方神社あるって。ちょっと行ってみない?」

買ったばかりの炭酸水を渡す晴に礼を述べそれを受け取った。

更に脇に少し逸れた先、木々が隠すようにしている奥に石畳の階段が見える。言われなければ気が付かなかっただろう、確かに人ごみは避けられるだろうけれど。

「流石にそっち行ったら合流できなくなるだろ」

何よりわかりにくいから場所の説明もしづらい。もう少し先を行ってれば休憩出来るところがあるかもしれないし。
炭酸水を一口、口に含む。口内で弾ける炭酸に目を細める。乾いた喉が潤う。

神社の方が気になるらしい晴は物惜しげに、木々囲われて暗いその先を見上げている。昔っから薄暗いところは苦手なくせに何でか惹かれるんだよな。変わらない晴の様子を横目でこれじゃキリがないと、炭酸水のキャップを閉め、立ち止まる晴の手を掴んだ。晴の視線が俺へと向く。俺は何も言わずに、立ち止まったままの晴をその場所から剥がすように、手を引いて歩き始めた。

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