風紀委員幹部会議




「神様が降りてくるって、あの話本当なんすか?」

でも願い事とかするような祭りでしたっけ。後ろを付いてくる空が歩きながらも訝し気に言う。
この地域にある古くからの言い伝えは、神様が夏の間だけ空から降りてくるというものだった。そしてそこには神様以外の、人ならざる者も含まれていたり、いなかったり…。
もともと怪奇現象は信じない性質だけれどあれば面白いとも思う。そしてたとえ悪趣味だと罵られようとも――その言い伝えに限らずとも――踊らされる人達を見るのが最高に面白かったりもするのだから、唆し、はたまた嗾けるのはやめられない。
そんな自身の思惑を飲みこんでいつも通り笑みを浮かべ顔だけ振り返る。振り向いた先、空はどこか釈然としない、俺の言う事など信じられないというような顔をしていて、俺は空のその様子により一層笑みを深めた。


「じゃあさ、もし本当だったとして、空くんはどんな願い事すんの?」

「え、俺ですか。そっすね、…」

少し考えてみるけれど答えに迷ったのか、空が影也を横目で伺うのを確認して口角を上げる。まあ、空はどうせ影也関係だよね。結局、秘密っす。小さくそう答える空が何を考えているのか、大した興味が今さら湧くことはなかった。


「聖希、いい加減にしろ。そんな話今はもうないだろう」

「昔はちゃんとあったじゃん?嘘言ってるわけじゃないんだからそんなカッカする事じゃないじゃーん」

影也からの指摘にそう答えるも、俺の弁解など全く聞かない影也の刺すような睨みに笑みが強張る。顔が怖いんだよな、真顔でさえ怖いって言われてきたんだからそう簡単に睨んだりしないでほしいものだ。
最近影也の俺に対する牽制が強くなってきた気がするけれど、以前からこうだったと言われれば確かにずうっと昔からこんな感じだった気もする。兎に角、影也は少し俺に厳しいんだよ、親戚のよしみでもうちょっと甘やかしてくれないかなあ…。

「…うん、まあいいや、そんで?どうしよっか、これから」

どうでもいいことを長ったらしく考えている趣味はない。いつも通りの俺の切り替えの速さに影也は臆することなく俺の言ったことに対して頷き考えを巡らせる。
その様子を隣で眺めながら思う。ほんと俺の扱いに慣れているというか、長けてるというか。それもむかつくくらいに。
影也は俺の考えてることもつゆ知らずに、顔を上げていつも通りの決して曲がらない意思を宿した瞳で俺をまっすぐに見定めた。


「……当初の予定通り行って問題はないだろう、特に計画の狂いもないし」

「……うん、あーそうだね。狂いなんてないね」

「なんだ。何か計画に差し障る問題でもあったか?」

「いんや!どれもこれも巡流が超頑張ってくれたお陰だね!1学期の功労者は間違いなく巡流だよね、いい子いい子してあげなくっちゃ」

影也の何を考えているのかわからないような瞳が刺さる。どこまで理解しているのかも、何をわかってるのかも、そしてどこまで許してくれるのかも何一つわからない。
加賀谷家の後継ぎとして何一つ文句なんてない、俺にはないものを、確かに影也は持っていた。


「……冬までに、全てを終わらせる事は、出来ないんでしょうか」

不意に、空が不安そうな顔で呟いた。珍しいその様子に俺と影也は顔を見合わせる。
冬までに、全て。もちろん空の言わんとすることはわかる。
冬には世代交代が行われる予定で、俺たち三年生は引退をしなければならない。それまでに俺たちが企て実行しているこの計画をすべて完遂することはできないのかと、出来れば俺たち三年生の手ですべてを終わらせてほしいと、そういうことだろう。
影也が小さく息を吐く。空はうつむき、俺は笑った。

「無理だろうな」

「うん。まあ無理だろうね。あと半年しかないし」

「…そうですよね」

何を今さら、答えの分かり切っていることを。浮かない表情の空に笑う。今さら情でも湧いたのだろうか。友人と、そして忌み嫌うべき相手だった、会長を相手に。


「予定通り生徒会は”風紀の手によって”潰し、解散させる。そうして風紀の管理下の元、もう一度生徒会を再建し、学園の制度を一新するんだ」

「影也さん、」

「階級制度のない、全員平等の学園を。俺たちが出来るのは良くても生徒会を潰すところまでだ。そこから先は空、お前たち次の世代が責任をもって、」


二人の様子をただ部外者のように眺めていると自分の中で途端に白けていくのがわかった。
影也が空に説くその姿は、まさに、大声で笑ってやりたいものだった。
影也の感情が見えないままに説くその姿は、見ようにはまるで決められた台詞をただそのままに吐き出しているようにも見える。それでも空は従順な犬のように頷き、そこには嘘か真かなんてどっちだって良くって、真実なんて関係ない、ただ主の言う事に素直に従っているだけのように、もう、そうとしか見れない。

まるですべてが茶番だ。全員平等な学園を?階級制度のない学園を?笑わせてくれる。影也、お前はただ、


「八雲くんに縛られる滝真が見たくないだけだろうが」


影也が俺を見る。俺はただ静かに、笑みを浮かべた。


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