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「それで?午前中ずっと見かけないと思ったら町内会会長のお手伝いしてたってわけ?」

生徒会長使うとか意外とやるねあんた。にやにや笑う清原が、反対に苦笑いを溢す赤城を肘で小突くのを眺めながら水を飲む。
もっといじられて居心地悪い思いをすればいい、俺をこき使った代償はデカいぞ。
そうやって内心いい気味だと笑っていれば、赤城から笑顔の裏に恨みが籠った眼差しを向けられる。しかしそんなの知ったことではないので素知らぬ顔をしていると次第にその眼差しには助けてくれという懇願の色が浮かんできた。
まあどっちにしろ、そんな顔しても知らないし助けるわけがないんだけどな。素知らぬ顔で赤城から視線を外して蕎麦を啜る、鼻を抜ける蕎麦の香りにうっとりと目を細めた。


そんなこんなで昼食の時間、清原から常にいじられ、更に植木や晴からは興味津々という視線に晒された赤城からは、もう勘弁して頂きたいです…。とついに、滅多に聞くことのできない弱音が吐き出された。
全員、既に出された蕎麦は食べ終えて食後のお茶を啜っている。そんな中で珍しい赤城の弱音と情けない表情に思わず笑うと赤城は咎める様な視線を一度俺へと向けて、諦めたようにすっかり温くなってしまったお茶を呷った。


「そういえばね、今夜商店街の方でお祭りあるんだけどどう?せっかくだしみんなで行ってみる?」

「お祭り?」

「そう、毎年この時期に行われる地元のお祭り。意外と賑わうんだよ」

そんな風に楽しそうに説明をする清原の話を聞いて、隣の席に座る晴がそわそわし出す。
これは晴がまた喜びそうな話だな。横目で確認した晴は予想通り、まるで子供のように瞳を輝かせて見えない尻尾をぶんぶんと振っていた。

「そういえば祭りなんてしばらく行ってなかったな」

「…!」

俺のつぶやきに晴が無言で何度も頷く。わかりやすいやつ。口にはしなくとも顔が、体が、動作が全力で行きたいと言っている。昨日も今朝も海に行くのを断ってしまったから、今回もまたダメだと断られるとでも思っているのだろうか。確かにこっちへ来てから晴の誘いは断ってばかりだったし、俺自身まだまともに遊んでいない気もする。
このまま何もせず帰るのはせっかく誘ってくれた清原達にも失礼だし、何よりももったいない。せっかくの高校生活最後の夏休みだ、楽しむのだって悪くはないだろう。

「赤城、お前は?」

「会長が行くのなら僕も行きますよ」

「そうか。せっかくだし全員で行くとするか」

やったーー!晴の歓声が店内に響いて慌てて制止する。早くいこ!!と席を立ち、今にも店を飛び出しかねない勢いで俺の腕を引っ張る晴。お前は小学生か、お祭りは早くても夕方からだろうが!そう強めに言えば少し落ち着いたのか。それでも不満が残るらしい、口を突き出して納得してなさそうな顔をするものの、とりあえず席に腰を落とした晴にほっと息を吐いた。


「お前、マジ馬鹿なんだな」

「とか言って、植木もちょっと楽しみなんだろ、お祭り」

「はあ!?お前と一緒にすんじゃねえ馬鹿」

「うそ、図星?植木って意外とかわいいとこあんだね、ぷぷ」

「殺すぞ」


隣ではしゃぐ二人の様子を眺めながら、親心ってこんな感じなのかと考えながら冷めたお茶を飲む。
これはどんな理由があっても行かないっていう選択は出来なかったみたいだ。まだ夕方まで時間はあるし、一度部屋に戻ってひと眠りでもしようか。そんなことを考えていると、お茶を飲み干した加賀谷が、そういえば。と声を上げた。

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