22
渋々といったように正面の席に着いた晴は仏頂面のままお盆を引き寄せて手を合わせる。よほど俺の隣に座れなかったことが気に入らないらしい、小さく頂きますと挨拶を述べるだけで会話どころか俺と赤城の方を見向きもしない。しかしその仏頂面はすぐに剥がれることになるのだったが。
「っんにこれ、超うまい!」
きらきらと輝く瞳で飯を頬張る晴につい笑う。昔から飯の事となると途端に扱いが容易くなる。・・・いや、飯抜きにしても扱いやすいことは変わらなかったか。なんにしろ、本当に俺の弟なのか、浅葱の人間なのか疑わしくなるほど単純な奴だ。
「そうだそうだ、小耳にはさんだんですが赤城先輩って転入生だったんですか?」
「僕ですか?ええ、よくご存じで。2年生の夏前に星渦に入ったんですよ」
早くも機嫌を直した晴が、まるで何もなかったかのように赤城に話を振り出す様は中々面白い。
机を挟んで向かい合ってそう会話をする二人に、そういえばこの二人が話しているのを見るのはレアだと思う。どちらも俺に近しい人間ではあるが何分所属する所が全然違う。もしかしたら俺の見ていないところで仲良くやっているのかもしれないが・・・まあ、きっとそれはないだろう。完璧に作られ浮かべられた赤城の微笑みに、俺の弟とはいえそう簡単に仮面を剥がすことはないのかと嘆息した。
「また懐かしい話を持ってきたな。誰から聞いたんだ?」
「んー?誰だったかなあ、清原先輩だったかなあ・・・忘れちゃった。赤城先輩の実家ってすごい大きい会社ですよね。星渦の前は私立だったんですか?東葉だったとか」
俺からの問いにははぐらかすような曖昧な返事して、すぐに赤城に質問を投げかける。興味津々と言いたげに輝く晴の瞳に赤城は嫌な顔一つせず、笑いながらいいえ。と楽しそうに返した。
「高校は公立でしたよ」
「へえー意外だな。この辺の高校ですか?」
「・・・晴。もういいだろ、あんま赤城にちょっかいかけるな」
晴の止まらない質問責めにいい加減赤城が不憫に思えてそう制すると、晴は不服そうに頬を膨らませた。当の本人である赤城もなんて事もないように笑ってから思案するように顎に手を持っていく。
「そうですね、あまりお行儀のいい学校ではなかったので言いにくいのですがこの地区の高校に通っていましたよ。八木高、といえばわかるでしょうか」
八木高?聞き覚えのある学校名に質問をした晴ではなく俺が眉を顰める事になる。確かに八木校はこの辺りの公立の高校・・・正確に言えば隣の地区にある高校だが、俺が八木校を知っているのはそれだけが理由ではない。―2年前。そのような名前の高校に…あくまで付き添いというか巻き込まれたという形ではあったが、確かに喧嘩を売りに行った事があった。
考え込む俺の様子に晴は横目で確認してから、目を細め口元に笑みを浮かべるとそのままこてん、と首を傾げた。
「あー俺わかんないや、通ってたのはずっと違う県の学校だったし!でも2年から転入してきたのに親衛隊長ってすごいですよね!よっぽど兄貴のこと好きなんですね」
「いえ、好きなんてそんな恐れ多いです。浅葱会長のことはとても尊敬しておりますから」
「兄貴、いい親衛隊長さんを持ったね」
晴から掛けられた声にああ、と曖昧に頷く。
そのすぐ後には晴と赤城はすぐに別の話題で盛り上がっていた。二人はもしかしたら相性がいいのかもしれない。
二人の話をぼんやりききながらも、赤城が八木高に通っていた事が、やけに引っかかって仕方がなかった。
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