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二人並んで別荘に戻り、玄関の扉を開けるや否やいい香りが鼻をくすぐった。
リビングの方からは賑やかな話し声や食器を重ねる音が聞こえてくる。もう朝食の準備でもしているのだろうか。少し驚いて清原と一度目を見合わせると、清原は皆早起きだねえと言って笑った。

「着替えてくるから先にやっててよ」

「ん、ああ。わかった」

頷く清原はそのまま階段を上っていく。その後姿をしばらく眺めてから、お前もダラダラしてないで早く来いよ。そう声をかけると清原は振り返りもせずに手をひらひらを掲げた。

「・・・」

階段を上りきった清原の姿が曲がり角を曲がって見えなくなるのを確認してから、さてもうそんな時間かと携帯に視線を落とす。まだ少し早い時間だけれど、散歩をしたせいかお腹はすいている。食欲をそそるようないい香りに俺はそのままリビングへ向かうことに決めて踵を返した。

「うお、赤城。お前いつからそこに・・・」

リビングへ続く扉の影から顔を覗かせて、こちらの様子を伺う赤城の姿にぎょっとする。赤城はしばらく何も答えずにじとりとした目でこちらを見つめるが、不安に思って赤城の名前をもう一度呼べば、何もなかったかのようにぱっと花が咲くように笑みを浮かべた。

「会長、おはようございます、朝からお散歩ですか?」

「・・・いや、こえーよ。なんだよ今の」

「今の?・・・よくわかりませんが、朝食の用意は出来ていますよ」

「・・・そうかよ」

よくわからないのはお前の考えだよ。そうは口にしないものの、笑顔の赤城に対して不気味なものを感じながら歩き出す。
笑顔のまま俺のあとについてくる赤城は特に何か話そうとしないものの、背中に痛いほどの視線を感じて居心地の悪さについ顔を顰めた。

「・・・赤城、お前さ・・・」

「はい?なんでしょうか」

「・・・いや、なんでもない」

そうですか。そう言って特に追及してこないままの赤城。
すぐ後ろを黙ってついてこられるのなんていつもは気にならないのに、今日ばかりはどうにも居心地悪く感じる。

「お前、後ろじゃなくて隣歩けよ」

「?わかりました」

「それでいい。お前、風紀の連中と上手くやってんのか?」

赤の他人と同じ屋根の下で何日も生活を共に送る事が苦手な人間は少なくない。赤城に至っては俺がいるから来たんだろうし(まあ俺は一言も頼んではいないが)、言ってしまえばオンの状態が常に続くイメージだろうか。疲れないはずがない。しかも周りは風紀ばかり、状況だけで言えば俺と赤城は完全に場違いなのだから。

「会長に迷惑がかかる様なことはしませんよ」

「・・・俺のことばかり気にしてないで自分のこと考えろよ」

「俺だってお前の事なんて放っておいて海に飛び込みたいよ」

「・・・俺のことは気にせず飛び込んで来いよ」

「ふふ、ご冗談を」

小馬鹿にしたように、口元を押さえて笑う赤城に顔が引きつる。冗談じゃねえよ。海でも川でも好きなように飛び込んで来いよ。リビングへ続く扉の前で立ち止まる赤城はまるで執事か何かのように腰を軽く折り、扉を開いてそのまま腕で支えた。

「どうぞ、会長」

「・・・ああ」

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