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海から一際強い風が吹く。
向かい合う俺と清原の間に潮の匂いを纏う風が吹き抜け、清原は視線を落とした。口もとにうっすらと浮かぶそれはまるで自嘲しているような笑みで、急に人が変わってしまったような清原の様子に俺はなんて声をかけるべきかわからなかった。

今日の清原は、おかしい。いつもおかしいけれど、今日は特に。清原の濡れた髪の毛が吹かれて、はらりと顔に落ちる。清原は風が強いねと言って髪をかき上げた。


「やっぱり朝はちょっと冷えるなあ」

「…そうだな」

何事もなかったかのようにそう言ってまた歩き始めた清原に一体、今のはなんだったんだろうと思う。やばい目をしたかと思えば、浮かない顔をしたり、すぐにまたいつもの調子に戻ったり。マジでわけわかんないなこいつ。隣で寒そうに身を縮こませる清原が本当に理解できなくて何故だか無性にモヤモヤする。ここまで理解不能な人間、中々いない。強いて言うのであればあの男、日暮八雲と肩を並べる…とまではいかないが、まああれの次くらいには理解不能だ。多分きっと、だからモヤモヤするんだろう。清原にどこか八雲と似たものを感じているから、こそ。

「上着貸す、着てろよ」

夏とはいえ朝の海辺は驚くほど気温が低い。その上全身水浸しとくればそりゃ冷えるだろう。
仕方ないと自分が羽織っていたパーカーを脱いで清原に突き出す。清原は驚いたように、目を丸めてきょとんとした顔をした。

「えー、…俺が着たらパーカー濡れちゃうよ?」

「いい。散歩するんだろ」

すぐに屋内に戻るわけでもないんだし、風邪引かれても困る。そう続けて言えば清原は一瞬躊躇い、そして大人しくパーカーを受け取った。
何も言わずに袖に腕を通してパーカーを羽織る。清原は擽ったそうにはにかみながらありがとう、と礼を述べた。

「清原は加賀谷と従兄弟同士なんだよな」

「うんそうだよ」

「お前ら、仲悪いのか?」

「仲ぁ?いや普通じゃん?なんで?」

心外と言わんばかりに首を傾げて尋ねる清原に一瞬言い淀む。従兄弟なのに学校では二人はあまり喋らない。それに風紀入る前なんて二人で話してるの見たことがないのだ。
植木は毎年この時期は必ずここに泊まると言っていたし、そこまで疎遠だったというわけでもなさそうだ。従兄弟だから仲が良いはずだとかそういうつもりもないが、同じ学校に通い、同じ屋根の下に寝泊まりしている中で一言も話をしないと言うのは意図的に避けているようにしか思えなかった。高等部に上がり二人が同じ風紀に入ってから尚更、それ以前の二人の関係が奇妙に思えてならないのだ。

それをどう言葉にしようか悩んで結局、二人が話している所をあまり見ないからとしか言えなかった。
清原は片眉を上げて、そんな仲悪く見える?と少し笑った。

「話をしない事に特に理由はないけど関係は良好なんじゃない?まあ家の事が絡むとやっぱ面倒だからお互い必要以上に関わろうとしないってのはあるかもね」

「家の事?」

「そう、家の事。気になる?」

清原の揶揄うような笑みに少し考えてから小さく頷いた。
頷いてから、これ以上はどう考えたって聞きすぎだと少し気まずく思う。昨晩植木に対して思いっきり突っ込んだ話をしたばかりなのに俺は性懲りも無くまた踏み込んだ質問をする。
ズケズケ聞いて悪い、謝ると清原は何も気にしていないようでいーよ別に。とおかしそうに言った。

「加賀谷が本家なの。うちは分家で、家の立場的には俺より影也の方が強いんだよね」

「本家と分家、」

「そういうの大人は気にするけど子供にとっちゃどうでもいいじゃん?まあ影也もあんなだからさ、すごく仲良くなるってこともなければ嫌うわけでもないし、まあまあの関係を築いてきたって感じなんだ。現に俺たちはこれくらいの距離感で丁度よくやってるしね」

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