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「行かないの?散歩の途中だったんでしょ?」

「あ、ああ。行く…けど、清原はもういいのか?」

お前こそ途中だったんだろ?そう言って海の方へ目を向けると、清原は不思議そうに目を丸めた。まるで一緒に行くのが当然だと言わんばかりの反応にむしろ俺の方が戸惑う。俺だったら自分のやっている事を放り出してまで人の散歩に付き合うという選択はまずしない。しかし清原は違うのか、脇に抱えたボードを持ち直すと清原は目を細めて笑った。


「いーよいーよ、目も覚めたし。会長とこうやって2人きりで散歩出来るなんて超レアだしね」

「大げさな。そんな大層なもんでもないだろ」

歩き始める清原、砂浜に浮かび上がる清原の濡れた足跡を追いかけた。

たかが俺との散歩になんの価値もなかろうに。完璧でありそしてランキング1位の生徒会長とは偶像に過ぎない事を清原なら十分に理解しているはずなのに妙な言い回しをする。

清原のわかりやすいミーハー的なお世辞に苦笑を漏らした。というかお世辞じゃなくて嫌味のつもりだろうか。その真意はわからない、清原の冗談にはいつも振り回される。

「大層なものだよ!自分の立ち位置ちゃんとわかってんのー?」

「会長職が大層なもんなだけだろ。俺なんてたまたま選ばれただけだし、俺自身にはそんな価値ない」

それに実際お前だって会長が誰だろうとどうでもいいだろ。そう続けてから、自分らしくない卑下するような発言になんだか妙に居心地の悪さを感じて視線を彷徨わせる。
顔を見られていないだけまだマシか、そう思っていたのに前を歩く清原は唐突に歩みを止めてゆっくりと振り返った。うわ、やだな。会長の弱気発言ウケるとか言われて揶揄われるんだろうか。
何かを言われる前にこちらから言ってやろうか、そう思って口を開いたところで、清原の据えた目に捉えられ言葉は喉に引っかかったように何一つ出てこなかった。

「えー、何言ってんの?」

なんて事ないただの返答のはずなのに、底の知れない深い瞳にじっと見つめられ言葉を失い口を噤む。清原の口元は笑みが浮かんでいるが目は全然笑っていない。その表情に得体の知れない何かを感じてぞわ、と背中が冷えた。

清原って、たまにこういう目をする。暗くて深い、なにを考えているのか全然分からないような目。
普段からよくわからないような奴だと思っていたけれど、最近は益々そう思う。

そういえば清原も初等部から星渦にいたんだっけ。それも確か、加賀谷よりも、俺よりも先に。そのくせ従兄弟同士であるはずの加賀谷と二人で話している場面を見たのは二人が高等部に上がって風紀に入った時が一番はじめだった。
俺が清原と始めて会話をしたのも高等部に上がって風紀委員として声をかけられたのが始めだ。今思えば初等部から同じなのに、高等部に上がるまで交流が全くないというのも変な話だと思う。年数で言えば10年近く同じ学校に通っているというのに、俺は清原のことを全然知らないんだな。

感情の見えない瞳が細められた。
何も言えないで固ったままの俺に清原は、そんなこと言うなんて会長らしくないね。と続けてにこりと笑った。


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