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睨みつけてくる植木の視線を正面から受け止め、見据えた。


「確かに、俺は加賀谷だけじゃなく周りにいた奴らを自分勝手に振り回した。お前が怒るのも無理はないし呆れられて見放されたって俺は何も言えない。現に以前までくっついて来てた学校のやつらには距離を取られたし、友達も減った。周りに以前より人が寄り付かなくなった。」

中等部から高等部に上がると共に俺は八雲に手を引かれ、そしてそのまま堕ちた。
それまで築いてきた信頼や信用がじわじわと消えていくあの時、俺はもう戻れないような気さえしていた。このまま落ちぶれて、この先ずっと浅葱の長男は出来損ないと称されるのだと俺は諦めたんだ。それも仕方ないだろう、きっと俺はもう戻れない。未来に期待も出来ない毎日を送るしか出来なかったんだ。
でも、八雲はそれを許さなかった。自分の手で堕としたくせにそれを許さないなんて、やはりあいつはどうかしてる。
信頼も何もかもを失って、堕ちた元中等部生徒会長と後ろ指を指される。そんな俺に残ったものは、今更必要のない不釣り合いな肩書きと、そして。

「そんな奴らがいる中で、加賀谷は離れていくどころかあろう事か俺と同じ土俵に上がった。
今じゃ生徒会長と風紀委員長だ、わけのわかんねえところまで登りつめて、結局いまもあいつは俺と対等な立場にいるんだ。どう考えたって普通じゃないだろ。
たまたま俺が引きずられた方向が、あいつの向かいたい方向だったのかもしれない。けど現実、あいつは今も俺と対等の場所にいてくれている。…まあ、今の関係は友人とは言えないかもしれないけどな」

あんな変なやつ、他にいないだろ。
そう言って加賀谷の仏頂面を思い浮かべて笑う。いつだって表情を変えずに俺の名を呼び、時には対立をし、時には抱える問題に同じトップとして一緒に立ち向かう。
それは加賀谷と初めて出会った7年前から、立場は変わろうとも変わらない関係で、全てを無くしかけた時もあいつは俺の腕を引っ張ってくれた。
逃げたければ逃げればいいと、加賀谷は俺に逃げ道を指してくれたんだ。

「俺は、加賀谷に感謝してるんだ」

「…」

「同じ学園のトップに立つものとしても、友人としてもな」

友人だというにはそこまで仲は良くないかもしれない。けれどただの知り合いだと言えるほど遠い距離にもいないんだ。

黙って俺の話を聞く植木の瞳が揺れる。
俺が柄にもなくこんな話をするのも、植木が黙って話を聞くのもきっと今日限りだ。伝わるだろうか、俺がなんでこんな話をしているのか。
それは植木、お前に俺の考えを知ってほしい、俺のことを今よりも少しでも理解してくれないかと、そう思ったからなんだ。


そんな切実な俺の思いを知ってか知らずか、植木は口を閉ざしたまま何も答えない。
そして二人の間に沈黙が落ちた。暑さのせいか、じわりと汗をかく。
やはりダメだったのだろうか。
そんなの知るかと一蹴されるどころか呆れて何も言葉も浮かばないのか。

月が雲に陰る。先ほどまで月の光でとても明るく感じていたのに、雲に隠れてしまったせいで辺りは暗く、急に心細く感じた。
妙なことを話してすまなかったと、素直に謝って部屋に戻ろうか。
こうなる事は薄々わかっていたはずなのにやけに落胆している。むしろ今まで唸りあっていた二人が急に理解し合うなんてそれこそ夢物語だ。俺は、一体何に期待をしていたのか。
一点を見つめて口を閉ざしたままの植木。これ以上俺と植木は近づく事はできない。歩み寄る努力をしただけ、そして少しでも植木の話を聞くことが出来ただけ十分だろう、これ以上ははじめから無理だったんだ、仕方ないと自分に言い聞かせるように視線を落とす。
無意識のうちに小さく吐き出したため息で、諦めが癖になってしまっていることに今更気がついた。


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