11



「お前がやけに加賀谷に固執するのはそういうわけか」

「別に固執してるわけじゃない。ただ、俺はあの人をこれからずっと支えていかなくちゃならないから、今やらなければならないことをしてるまでだ」

「今やらなければならないこと、ね」

高校生の植木が今やらなければならない事なんて、そうあるだろうか。何かが胸につっかえたような感覚に顔を顰める。

植木はもう話すことはない、と言うように俺を一瞥した。何も言えないでいる俺は、そのまま踵を返して歩き始めた植木の背中をただ見つめる。

このまま、植木は部屋に戻るのか。
そして明日から、またいつものやり取りを繰り返すのか。

そう考えると、俺は咄嗟に植木の腕を掴んでいた。驚いたように振り返る植木と視線が絡むが、驚きたいのは俺も同じだ。
俺は自分の行動が信じられなくて、わけわがわからずに目を丸めた。

「……」

「あ……。いや、……」

不審な顔をする植木の視線に耐えられず、掴んでいた腕を離して俯く。
なぜ俺は植木を引き止めたのか。
全てこの夜のせいだ。
いつもと違う植木の様子に、俺は何を思ったんだ。
…俺は、植木ともっと、…。


「……俺を嫌うのは、今やらなければならない事だからか」

「……」

「俺は、お前ともっと話しがしたい。植木の事をもっと知りたい」

こんな事を言うなんて、柄にもない。全てを言葉にしてから、俺は後悔をした。
今口にしたことを取り消して、無かったことにして、さっさと部屋に戻ってしまいたかった。植木の刺すような視線から逃げたかった。けれど、口から出てきた台詞は確かに俺の本心だったから。俺は自分の気持ちがよくわからなかった。


「……あんたって、相当変だよな」

「…変…?」

「初めてあった時から変わってる奴だって思ってたけど、ここまでの変人だとは……」

植木はそう言って俯いた。肩を震わせて、微かに聞こえてくる笑い声に、もしかして今すごく馬鹿にされているのではないかと気がつく。
確かに突拍子も無い事を言った、けれど笑うことはないだろう。少しムッとして植木の名前を呼ぶが当の本人は気にせず笑いをこぼして行く。
そんな植木の姿に怒りはどこかへ消え呆気にとられる。っていうか、植木って笑うのか。初めて見た植木の笑い顔に俺はただ困惑して、その笑いの波が過ぎ去るのを待つことしか出来なかった。

「今まで散々目の敵にされてきた相手に対して、普通は話をしたいなんて思わねーよ。俺だったらこんな所で一緒に寝泊まりするのもやだね」

「まあ、それは…今夜お前と話してなければそうだったが」

「少し話しただけで印象でも変わったか?チョロいな、あんた」

小馬鹿にするように鼻で笑う植木に返す言葉もない。すべて、植木の言う通りだからだ。
植木には植木の人生があって、植木なりの考えがある。その上で、俺と植木が決して分かり合えない立ち位置にいようとも、話をすることはできるのではないかと期待してしまったのだ。

何も答えない俺に、植木は呆れたように大きくため息を吐き出すと、まるで呟くように話をし始める。植木の視線はまるで遠くを見つめているようで、そこに俺の姿が映り込む余裕なんてどこにもないように感じられた。


「…あんたが影也さんの近くにいた時、影也さんはあんたに随分振り回された。影也さんにとって、あんたは害なんだよ、出来ることならあの人の前から一生いなくなってほしいとさえ思ってる」

「害、か」

確かに植木の言うとおり、加賀谷には随分迷惑をかけた。
あの男に振り回される2年前の俺は周りに目を向ける余裕もなく、友達だったはずの加賀谷を、岩村を振り回し傷つけた。

加賀谷をすぐ隣で支えて見守って来た植木からすれば、そんな当時の俺は害そのものでしかないのだろう。
主人を傷つける存在を遠ざけるために威嚇するその行動も別に変なことではない。全ては彼なりの正義だったのだ。

しかし、俺と加賀谷の間柄はそれだけではないのだ。
植木は知らないだろう。俺と加賀谷が友人同士だという事。振り回すだけの関係じゃないことを。


31/70
prev/next

しおりを挿む
戻る


×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -