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「……ん、」

重たい身体と火照った肌。ゆっくりと瞼を開けると目の前に広がるのは暗闇だった。

確か、海から帰った後すぐに風呂に入って飯を食べて、その後部屋で赤城にマッサージをしてもらっていた。あまりの心地よさにいつのまにか寝てしまったのだろう。
電気が消され薄いタオルケットが掛けられているあたり、赤城が気を利かせて電気を消して出て行ったのだろうか。疲労のせいで身体は少し重たかったが、マッサージのおかげで怠さや筋肉痛は見られない。全くできた親衛隊長だ。

俺は一体どれくらい寝ていたのか。そういえば、今は何時だろう。
窓の外は暗い。ともすれば朝まで寝ていたという事はなさそうだが。確か携帯を枕元に置いといたはず…。手探りで枕元を探す、するとそれらしき物が手に当たった。

「12時…30分か。結構寝てたな…」

ディスプレイに明かりと共に表示された時刻に眩しさから目を細める。確か飯を食い終わって部屋に戻ったのが8時とかだったから、大体四時間眠っていたことになる。
しかし、12時半ともなれば他の奴らはもう眠ってしまっているだろうか。昼間散々遊びまわったのだ、植木、晴あたりは熟睡だろう。
もう一度寝に入ろうかと一度考えるが冴えた目に眠さなどは残らない。まずいな、変な時間に起きてしまった。これはまた眠りにつくのに少し時間がいる。
そこまで考えてふと自身の火照る身体が水分を欲している事に気がついた。
体が火照るのは昼間に太陽の下で遊んだからだろう。水でも飲もう。そう思って、ベッドの下に足を下ろした。




薄明かりのついたリビングに人はいない。
無人の中で稼働するウォーターサーバーの水をコップに注ぎ、キンキンに冷えたそれをゆっくりと煽った。
喉を通る冷たい水は体を潤していく、蓄積された熱を冷ますようなその冷たさに心地よさを感じた。
案の定屋敷は静まり返り、ここに泊まる人間は皆今頃眠りについているのだろう。静かな屋敷に、急に薄っすらと不気味なものを感じて背筋が冷えた。

そんな時不意にがたん、と二階で物音が聞こえ肩が跳ねた。
誰か起きたのだろうか。それとも…。
不審に思いながらコップを机の上に置いて、二階へ上がるため階段をそろりと足を忍ばせ静かに上がっていく。
じわりと嫌な汗をかくのは蒸すような暑さのせいか、それとも不気味な屋敷の雰囲気のせいか。

二階に上がりきったところで廊下の先を見つめる。
…バルコニーへの入り口が、少し空いている。
このまま自室へ戻ることも考えたが、どうもその先が気になってしまい、自分の部屋を通り越してゆっくり足を忍ばせ進んでいく事にした。


少し開いたバルコニーの扉を押しひらく。立て付けが悪くなっているのか、ギイ、と嫌な音が案外大きく鳴った。

月明かりが照らすその先で人影が動いた。
心臓が飛び出るかと思った。その人影は突然の音に驚いたように肩を跳ねさせると、弾かれたようにこちらを振り向いた。

「っ、」

「!………う、植木…?」

「…なんだ、あんたか」

ほっと息をつく植木の姿に、俺も気づかれないようにそっと安堵する。こんな時間に、何やってるんだ。どうやら一人で涼んでいた様子の植木に小さく息を吐き出した。

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