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日も沈み始めた頃、何時間も遊んで漸く満足した様子の晴に俺たちは心の底から安堵した。もうこれ以上は体がもたない。清原も最初こそはノリノリだったが途中からは何度パラソルの下に逃げ、何度晴に引っ張られ太陽の下に連れ戻されていたことか。唯一植木だけは晴の底知れない体力とやる気についていけていたようだが3年組はバテバテである。海の上に浮かぶ真っ赤な太陽を、晴を除き全員疲弊しきった顔で眺め、鉛のように重たくなった体に鞭打ちやっとのことで別荘へと帰ってきたわけであった。

「あっおかえりなさい。随分長いこと外にいましたね、皆さん水分補給はしっかり行ってましたか?」

「赤城…お前…」

上機嫌で俺たちを出迎えてくれたのは使用人の荒木さんではなく赤城だった。その疲れを知らない笑顔に口元がひきつる。こっちは死ぬほど疲れているというのに、この男は…。固まる俺を置いて全員ゾンビのような足取りで各々の部屋へ戻っていく、その後ろ姿にお風呂の用意できてるみたいですよ〜と間抜けな声をかける赤城に深く息を吐き出した。

「お前、どこいってたんだよ?こっちは死ぬ思いで晴に付き合ってたってのに」

「ああ、実はこのあたり実家の事業で手掛けてるとこなんだ」

はいお水、と準備していたペットボトルを差し出す赤城に礼を言いそれを受け取りながらもへえ。と感心する。そういえば赤城の実家はホテルの経営や観光地を手掛けるリゾート系の大企業だったか。

「そうだったのか。それで?」

「昔この辺りに連れてきてもらってたんだけど、懐かしくなっちゃって。つい遠くまで散歩に」

にこにこしながらそう答える赤城の顔に疲労の色は見えない。それに日焼けもしていないようで肌は赤くなることもせず白いままだ。
散歩に出たのは本当だとしてもきっとそこそこで帰ってきたのだろう。どうせ海まで行くのが面倒になったからここで荒木さんの手伝いでもしながら待っていたと、そんなところだろう。お前の判断が正解だよ、と言い返す気力も湧かずまた一つため息を吐いて、自室を目指して止めていた足取りを再開させた。

「あれ、元気ないな。そんなハードだったの?」

「尋常じゃないほどにな。お前にも味合わせたいよ」

「わあ、一緒に遊べなくて残念だ。そうだ、風呂上がったらクリーム塗ってやるよ、その日焼けはキツそうだしな」

顔も火照りまくり。隣を歩く赤城はそう言って俺の頬を両手で優しく挟みこんだ。必然的に歩みを止められ、訝しげに赤城に目を移す。
一体なんだ、やけに絡んでくるな。ひんやりと冷たく感じる赤城の手のひらが心地よく、ぼーっとしながら考える。そうしてふと浮かんだ考えに、ああなるほど。と合点がいき、にやりと口元に笑みを浮かべた。

「お前、一人で寂しかったんだろ」

「何言ってんのお前」

「何時間も放置してからな。寂しかったんなら来ればよかったのに」

「はあ?なに、それ本気で言ってんの?」

「本気。あーねみー。だめだ、このままじゃ飯の前に寝そうだ」

「ちょっと、おい、お前な!」

「ああ、赤城。あとでクリームとマッサージ頼む、絶対筋肉痛だわこれ」

「はぁっ、もうなんなんだよ…風呂入ったら部屋行くから待ってろよ!このバ会長」

「バ会長はやめろと何度も言ってる」

欠伸を噛み殺しながら階段を一段ずつ登っていく。
赤城は歩みを止めそれ以上付いてくることなく、ただ下の方からもう一度このバ会長!と恨み…いや、照れを隠すように、声を張り上げていたのであった。

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