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「あ、やっときた!おそいよー!」

加賀谷と並んで砂浜を歩いている時、遠くの方でこっちこっち、と手を振る水着姿の晴が見えてきて、あいつは本当に元気だなと感嘆する。小学生並みに底知れない体力を持ち合わせているようで、隣でびしょ濡れの植木はそんな晴に付き合わされて心底迷惑そうな顔をして俺を睨みつけている。あいつは俺に対して抗議するかのようにあんな顔をしてくるが断っておこう、17にもなる弟の不始末は兄の責任ではない。
ぶんぶんと手を振り続ける晴に対して軽く手を振り返して晴たちの待つ方へ進んでいく。

砂に足を取られながらも進みようやく近くまでやってくると、砂浜の上、パラソルの下でビーチボールを抱え座り込んでいた清原が不思議そうに俺たちを振り返り首を傾げた。


「あれ、親衛隊長の姿が見えないけどどうしたの?」

「結局この時間まで待ってても戻ってこなかった。荒木さんに、もし赤城が戻ってきたらここに来るよう伝えてもらうよう頼んだから大丈夫だとは思うけど」

「そっか、どこ行ったんだろうねー?」

「まあ待ってればすぐ来るだろ」

少し気にならないでもないが、あいつの神出鬼没っぷりには普段から振り回されてるせいか探している時に見つからないのにはもう慣れた。
きっとそのうちひょっこり出て来るだろう。気にするだけ時間の無駄である。


「それにしてもすごいな。ここも清原家のものか?」

ゴミの一つもない綺麗な白い砂浜と、青く澄んだ海のコントラストに感心する。そういえばこの時期、それにこんな素敵な場所に人が一人も見えない事をふと疑問に思う。
穴場だという線も無くはないがそれにしては近くに建物がよく見える。だとすれば私有地かと憶測を立て尋ねれば清原はなんて事もないように頷くのだった。

「そうだよー、いわゆるプライベートビーチってやつ?」

「そうか、さすがだな」

「こうする事で一般人とのトラブル回避にもなるしね、安いもんだよ」


金持ちは何かと因縁をつけられやすいものなのは俺もよく知っている。
以前加賀谷と理事長と三人で行った人だらけの海もよかったがこういう静かな海もいいものだな。なるほどな、と頷いて広い砂浜にぽつんと一つ立てられたパラソルの影に隠れるように入り込んだ。
晴が濡れた髪をかき上げながらこちらへ走り寄ってきた。その後ろから心底疲れた様子の植木もついてくる。同じように俺の隣に座り込んだ加賀谷の姿を見つけた植木は心なしか表情が明るくなったような気がした。

「もー遅いよ!兄貴、海入らないの?加賀谷さんも!超きれいだよ」

「ああ、悪い。俺は見てるからいいよ」

「俺もいい。三人で行ってこい」

「ふーん、そっか」

晴は少しだけ残念そうな顔をすると、加賀谷の隣に嬉々として座り込もうとした植木の腕をとって無理やり日差しの下に引きずって行った。植木の抗議の声は晴には届いていないらしい。気にせず清原を呼ぶ晴の姿にあいつは植木の扱いが随分上手いなと苦笑せざるを得なかった。


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