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「で、こんなメンバーでどこいくつもりだ」

走るバスの窓の外が建造物から木々に変わって来た頃、隣で爆睡する晴を一瞥してから後ろに座る清原を振り返った。携帯をいじっていた清原は俺の問いに顔を上げて目を丸くさせると軽く笑った。そうして、みてて。と窓の外を指差す。

「今向かってるのは俺んちの別荘だよ、学生のうちに夏休みを謳歌しないとね」

清原の指す方向に視線を向けた。窓の外は木々が生い茂りいくら走っても特に面白くもなんともない道が続く。一体何を見ててというのか、疑問に思いながらも代わり映えしない景色をぼんやり眺めてると、突如視界がひらけて、青色が窓枠いっぱいに広がった。

その鮮やかさと太陽の光が反射した煌めきについ感嘆の声を上げる。海だ。空と海の境目がわからなくなるほどの青に呼吸をするのも忘れるくらい目を奪われた。


「綺麗だよね、俺もこの一瞬が好きなんだよね」

清原の声にハッとする。つい見とれてしまった。なんだか気恥ずかしくって、誤魔化すように咳払いをしてから今一度清原に視線を向ける。

「…それにしたって、俺と赤城まで呼ぶことないだろ。何企んでんだ」

「え?なんで?なんも企んでないよ。いいじゃん、大人数の方が楽しいでしょ」

「…そーかよ」

まさか清原が今の生徒会内部の状態を知らないとは思えない。全て知った上で風紀とは全く関係のない俺と赤城をわざわざ休暇中に呼ぶとしたら、 それなりに何かしら理由があると思ったのだが。まあ裏があったとして、そう簡単に教えてくれたら今までだって苦労はしてない。

何を企んでいるか知らないがたまには乗ってやる。窓の外の景色を眺める清原の横顔を一瞥して、嫌になるくらい青い空と海に溜息を吐き出した。




それから数分バスに揺られ、たどり着いた先はなかなか立派な別荘だった。清原がインターフォンを鳴らすと両開きの扉がゆっくりと開く。そこから現れた老年の女性は深いシワの刻まれた顔に人の良い笑みを浮かべて、深々とお辞儀をした。

「聖希坊ちゃんに影也坊ちゃん、空坊ちゃん。それからご学友の皆さま、お待ちしておりましたよ。どうぞゆっくりして下さいな」

「あーご苦労様!こちらは荒木、うちの使用人だよ。だいぶ歳はいってるけどなんでも出来る婆さんだから困った事があったら荒木に言って。他にも何人か使用人がいるけど気にしなくていいからね」

さっ入って!と先導を切って行く清原、それに躊躇いもなく続く加賀谷と植木の姿にふと疑問に思う。
加賀谷と清原は従兄弟同士なので、清原んちの使用人が加賀谷の顔を知っていることはわかる。しかし植木の事まで認知しているというのは、なんというか意外だった。学園の委員会以上に関わりがあるという事だろうか、荒木さんに会釈をする植木はなんとなく学園でみる植木とは違った雰囲気を感じて、その様子に謎が深まる。というか何泊泊まるか知らないが植木と長時間共にいる事は可能なのだろうか、とても不安だ。

「何やってんの兄貴?入んないの?」

「あ、ああ」

先を歩く晴が振り返って不思議そうに首を傾げた。
今考えるべきことではなかったな。慌てて返事をして止まっていた足を動かすが、ふと背後から近寄る気配に足を止めた。

「…?」

今、何か変な感じがした気がするんだが、気のせいだろうか。振り返っても何もないその先に首をひねる。ふと風が強く吹いた。風に乗って磯の香りが鼻孔をくすぐる。どうやらここから海は近いようだ。

「この場所から海は見えないけどだいぶ近いみたいですね」

「…赤城。お前まで、なんでこんなところについて来たんだよ」

隣から声をかけて来た赤城に目を向ける。赤城はいつも通り笑みを浮かべて言い放つ。

「それはもちろん、会長の行くところならばどこまでもついて行くつもりですから」

「は、嫌がらせのためにか?お前も暇なやつだな」

それにしたって暑い。海が近いせいか湿度も高くむしむしとした暑さに、つい先ほどまで冷房の効いた車内にいたのに早くもじんわりと汗が浮かんできた。さっさと屋内へ避難しよう、このままではこの暑さにやられて倒れてしまう。
隣で空を仰ぐ赤城に行くぞ、と声をかけて止めていた足取りを再び動かし始めた。




「本当馬鹿だなぁ。言ったでしょ、守るためだって」

赤城の呟きは風にかき消されて届かない。
まとわり付くような熱気も共に吹き飛ばされてしまえばいいのに。赤城は雲ひとつない空を見上げて空気を深く吸い込む。そうして、前を見据えて歩き始めた。

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