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ベッドに横になりながら天井をぼんやりと眺める。
リビングで晴と並んで昼食を食べ、その後綺麗に片付いた自室にこもって30分くらい経っただろうか。久しぶりの実家の居心地はなかなかのものだった。
年末以来の自分の部屋には埃一つない、やはり実家とは最高だ。何もしなくても飯が出て、何もしなくても部屋が掃除される。何か欲しいものがあれば誰かに言えばすぐに用意される、最高だな。
空調の効いた部屋でぼんやりしていると身体が重たくなっていくのに気がつく。移動の疲れか、それとも学園生活の疲れか。どっと押し寄せる疲れに飲まれるよう、いつしか俺は意識を手放していた。


***

「兄貴、入っていいー?」

部屋の扉をノックする。すぐに返事が返ってくるかと思ったがいつまで経っても返らない返事におや、と首を傾げた。
おかしいな、昼食後は部屋に戻るって言ってたしここにいると思ったんだけど。不思議に思いながらもドアノブを回すと鍵はかけられておらずすんなりと開く、ゆっくりと扉を開いて、隙間から顔をのぞかせるようにして室内を見渡した。
いた。ベッドの上、掛け布団の上にそのまま身を投げ出し目を瞑る兄は寝ているのだろう。静かに扉を開いて、音を立てないように忍び足で兄の眠るベッドの近くまで行く。
呼吸でゆっくりと上下する胸が彼の深い眠りを教えてくれた。実家に帰ってきて、久しぶりにゆっくりできたんじゃないか。兄の目の下にうっすらと浮かぶクマをなぞって、そのまま頬を撫でた。余程ぐっすり眠っているのか兄は身じろぎひとつしない。邪な考えが思い浮かぶが慌ててそれを振り払う。これ以上はやめておこう。兄の頬をなぞる指先を離して、詰めていた息を吐きだした。

電気が付いていない部屋は窓から差す日差しで全然暗くない。もともと物の少ない部屋は綺麗に整頓されているせいで余計にこざっぱりしているように感じる。物の少ない部屋は少し物寂しくも感じるが、小学生の頃から全寮制の学校に入っていればこうもなるかと兄の眠る顔をじっと見つめる。
静かな兄の寝息を聞きながらそのままぼんやりと天井を見上げた。



俺がまだ地元の公立の小学校に上がって1年目の頃の話だ。一つ上の兄もまた同じ小学校に通っていて、登下校はいつも一緒だった。
その頃は近所に住む、兄貴と同じ年の相良秋も入れて三人で帰るのが日課だった。昔から、今ほどではないにしろブラコンの気質があった俺は、兄と親しそうに会話する秋に嫉妬しよく噛み付いたものだった。
そんな俺をからかう秋と宥める兄。鬱陶しいだけだと思っていたけれど、今思えば三人で帰る他愛ない時間はかけがえのないものだったと思い知る。

ある日、いつものように十字路で秋と別れたあと2人並んで家へ帰る途中の事だった。曲がり角の先、実家の門の前に止まった一台の黒塗りの車が目に入り、思わず兄と顔を見合わせた。

「だれだろ?おばあちゃまかな、えつこおばさまかも!」

「はる、走らないよ。おいで、手つなごう」

「うん!だれだろうねえ、きになるなぁ」

「そうだな。明日お父さまの会社のパーティがあるって、お母さんがいってたからその打ち合わせかも。お客さんにはちゃんとあいさつするんだよ」

「わかってるよ!おにいちゃん、はやく!」

兄の手を取ってはやくはやく、と急かすように手を引っ張った。兄は笑って俺に引っ張られていく。そうして家の門の前に止まる、黒塗りの車の横を通り過ぎようとした時だった。


「やあ。晴、そーま」

停車した車の熱反ガラス使用の窓が下がり、見えるようになる車内。こちらに顔を向けて俺たちを呼び止める見覚えのある顔に反射的にげっとした。
にこにこ笑うのは従兄弟の八雲。その隣で八雲の母親であるおばさんが微笑んで、学校の帰り?と声をかけてきた。おばさんは嫌いじゃないけど、八雲は嫌いだ。八雲がうちに何の用だとむっとしながらもおばさんの問いかけに小さく頷くと兄は俺の手をぐっと引いた。

「乗っていく?玄関まで少しあるものね」

「えっいいの?」

門から家の玄関まで俺たち子供の足で4.5分はかかる。もう少し歩かなければいけないと思っていただけにおばさんの申し出は八雲の存在を忘れるくらい嬉しかった。思わず声を上げるが、微笑む八雲と困ったような顔をする兄に気がついて慌てて口を噤んだ。大変だ。お前はいつも、とまた兄に小言を言われてしまう。兄の手をぎゅっと握って違くて、と言い訳をしようとしたところで閉まっていた門が音を立ててゆっくり開きはじめた。


「ほら、乗って。日が暮れてしまうわ」

おばさんの声に俺と兄は目を見合わせて、そして静かに頷いた。


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