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「あーそれと花井見かけたらここに来るよう言っといて」
「…なんで?」
「なんでも。明日はちゃんと学校来るんだぞ。ただでさえお前、高等部上がってからクラスDまで落ち込んで、お前の親父に合わせる顔ないんだから」
「…」
「何度も言うけど来年にはクラスS戻ってもらうから。周りに変な顔されないよう今のうちに優等生に戻れよ、そーま」

じゃあしっかりな、そう言いたいことだけを言うとさっさと部屋から俺を追い出す八雲。俺の答えなんてまるで無視だ、もうここまでくると逆に清々しい。
無機質に閉じた扉を背に、ようやく解放された安心感からかほっと大きなため息をついてその場にしゃがみ込んだ。
本当に勝手なことを言ってくれる。中等部三年生の時、毎晩のように夜中まで連れ回して補導を食らわせた挙句、私生活をめちゃめちゃにしたのは何処のどいつだ。誰のせいでクラスDまで落ち込みまともな生活も送れていないというのか。しかもあいつの場合は俺の言いたいこともすべてをわかった上であの態度だ、性格が悪いにも程がある、まじでろくでもない人間だ。

「…はぁ」

親父の姉の息子があいつ、日暮八雲だった。つまり俺から見ると八雲は従兄弟の関係にあたるわけだが、あの男はろくな人間じゃない、小さな頃から八雲の隣で育ったがあいつは悪魔のような男だと俺は知っている。
その天才的な頭脳と要領の良さ、そして外面の良さを駆使して彼は親までも騙してきた。"頭が良くて運動もできる、面倒見がよくリーダーシップさえも兼ね備えられた理想の彼"が他の人間に見せる笑顔は全て作りものだった。そのストレスは計り知れないだろう、そしてそのストレスの捌け口となっているのがこの集まりや、俺だった。
八雲が"完璧"であるために、この組織は作られ、そして俺は彼の隣に置かれているのだ。

「…はっ」

馬鹿馬鹿しい話だ。そんな子供みたいな理由、どこに通用するというのだ。まさか社会人になってからもこんな事を続けるつもりもあるまい。
八雲は今年で高校を卒業する。そうしたら大学へ進んで、医療を学び、親父さんの病院を継ぐために研修医としてそこで働く事になるだろう。そしてゆくゆくは病院を継ぐ事になる。
彼の完璧な人生に、初めから俺は不必要なのだ。そんなことは昔から、あいつの暴力が俺に向いた時からわかっていた。
こんな子供じみた遊びも、きっとすぐに全て終わる。
だから俺はその時が来るまで彼に付き合う。いつの日か八雲にこの場所へ連れてこられた時に、いやそれよりもずっと前…それこそ初めて八雲に殴られた時にそう決めたのだった。

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