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「痛そうだな…」
「いてぇ。これ、あいつ警察突き出せんだろ」

刃物持ち出すのは卑怯だと目の前で俺の手当てをする雅宗に独りごちるよう言葉を発する。雅宗は苦笑いを浮かべながら確かになと頷いた。

それにしても散々だった、少し掠っただけかとおもったが想像以上に深い傷跡に眩暈を起こしたのはつい先ほどのこと。
とにかく手当てをしなければ、と溜まり場に常に用意されている救急セットを取り出して一人で悪戦苦闘している俺に、見かねた雅宗が手を貸してくれたのだ。

何やら軟膏を塗ってガーゼを当てる、手際よく進めるその一連の作業を眺めながらありがたく思う。
これはしばらく運動は控えた方が良さそうだな、それにもしかしたら傷が残るかもしれない。あのやろう、とナイフを振り回すあの男のことを思い出して嘆息する。
手持ち無沙汰の俺はなんとなく、つい先程のことをぼんやりと思い浮かべた。

結局警察が駆けつける前に逃げるようその場から退散したのだったが、まあ結果としては"しめる"事が出来たらしいので今回の襲撃は成功らしい。
溜まり場に戻ってきてすぐ、鼻歌交じりに草野先輩と花井先輩はまたどこかへバイクを走らせて出かけてしまった。
彼らも雅宗も無傷とは言わないもののそんなに大ダメージを負ったわけではなかったみたいで血まみれの俺の姿は酷く浮いて見えた。

まさかあんなぶっ飛んでる奴に絡まれるとは思っていなかった、実に不運だ。そう思っているのは俺だけではなく先輩方も同じようで、俺の血の滲むシャツにそういえば八木高にはヤバい一年がいたな。と今更思い出す始末だ。そんな馬鹿…もとい花井先輩にイラっとしたのは言わずもがな、とにかく俺は不運だったらしい。不運で片付けやがって。

包帯を巻いて、終わり。と立ち上がる雅宗に礼を述べる。雅宗は俺の顔を眺めると、閉じたばかりの救急箱をもう一度開けた。

「ほっぺも手当てしとくか」
「?ああ、あの馬鹿に殴られたところか。別にいいよ、もう痛くない」
「花井先輩な。放っておいて膿んだりしたら厄介だろ、お前の顔綺麗なんだから」

そう言って消毒液の染みた脱脂綿を頬に当てる雅宗に大人しく口をつぐむ。別に膿んだっていいと思ってたし、脱脂綿を当てられる頬は痛んだがせっかく手当てをしてくれているんだから文句を言える立場ではないので素直に頼んでおこうと思う。

それにしても今日はやけに綺麗な顔だと絶賛される日だな。自分で言うのもなんだが昔から褒められてきた顔面なので、今更謙遜したりすることはないがこうも1日に何度も引き合いに出されるといい加減飽き飽きして来る。
顔がいいからなんだって言うんだ、内面を見ろとかそう言う臭いことは言わないし思わないがあんまり面白くない、というかつまらない。
大きめのガーゼを貼る雅宗の真剣な眼差しを眺めながら、そっとその頬に指を滑らした。驚いたように丸まる瞳に小さく笑った。

「お前も綺麗な顔だよな」
「…お前なぁ」

雅宗の整った顔が照れたように少し赤くなる。こんだけ整った顔をしていれば褒められ慣れてないとか、そういうわけでもなかろうに。
実際雅宗は女にモテるしそれなりにちやほやされているはずだ。街で二人で歩いていれば大体は声をかけられるし女に困った様子もない。それを今更、なんてウブな反応をしてくれるか。

「そんな面と向かって言われたらそりゃ照れるだろ」
「かわいいなお前」
「かわいいはやめろ」

おしまいだおしまい。そう言って慌てて切り上げてどこかへ行ってしまった雅宗の後ろ姿に笑う。しばらくはこれでからかえそうだ、退屈はしないだろう。

「あ、お前!」
「?」

浅葱滝真、俺の名を呼び、雅宗とすれ違うように現れた男に目を向ける。グループの一人の男だった。

「奥でリーダー呼んでる」
「…わかった」

それじゃ伝えたからな、と言い残してさっさと行ってしまった男を見送る。
彼の口から出たリーダー、が誰を指すのかはこの溜まり場に通うようになってから、もう痛いほどわかっていた。

今日は来るのが早いな。と言ってももう18時過ぎか、腕時計をちらっと確認して小さくため息をついた。嫌だな、怪我が見つかったら面倒なことになりそうだ。処置を施したとはいえど痛む脇腹を二、三度摩って立ち上がる。
その小さな動きでさえ痛い、これでは隠せそうにないな…。出来ることならばこれ以上痛い思いはしたくない、どうか傷を負ったことがバレませんように。心の隅っこでそう願いながらも重たい足取りで、奥の部屋へ続く階段を上って行った。

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