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「っ!!きもい!」

手足がきかないのなら噛み付いてやろうと手首を掴む腕に顔を寄せた時だった。
不意に遠くからおい、と掛かる声に俺も男もハッとする。
男は慌てて顔を上げて誰が来たのか確認しているが俺の方からは何も見えない。しかし男の気が逸れた今がチャンスだ。
力が緩んだその隙をついて、掴む腕を外して腹の上に跨る男を思いっきり突き飛ばすと、面白いくらいに男は簡単に俺の上から転がり落ちた。
そしてようやく自由のきく体で起き上がり、地面に転がり呆けた顔の男をきつく睨みつけた。


「何やってんだお前ら」
「ってぇ……。いや、こいつの穴、試させてもらおうとしたんだけど暴れるから…」
「穴?って、滝真の?阿呆なんお前?」

あきれた様子で現れた男は地面に座り込む男と同じ制服を着ていた。やはり馬鹿の名前がわからないのと同じように俺は男の名前を知らなかった。

二人は同級生か何かなのか。ずいぶん親しそうな間柄に顔をしかめて二人を睨みつけた。まさかこの男も、このバカと一緒になって襲ってきやしないだろうな。男を伺うがその後ろからひょっこりと顔を出した佐藤の姿にあっ、と声を上げた。

「佐藤!」
「浅葱。お前な、勝手に帰るなよ。一言くらい言ってけ」
「あ、ああ。悪い、今度からは気をつける」

いつまでも馬鹿の野郎の近くになんていたくない、一度見下すように馬鹿を睨みつけ、すぐさま視線を逸らして佐藤の側に向かう。

佐藤は何が起こったのか全くわかっていないようでそれよりよ、と学校での話をし始めた。俺もこれ以上嫌な気持ちでいるのも嫌だったので特に何も言わずに佐藤の阿呆な話を聞いて気を紛らわす事にする。男に組み敷かれ襲われかけるなど一刻も早く忘れなければならない出来事だ。

馬鹿の友人である男はそんな俺に、気の毒そうな視線を寄越すと、すぐに目を逸らして馬鹿の近くに向かって行った。それを横目で見ながら、佐藤も来たことだしひとまずは安心だと一息つくのだった。

「ん?浅葱ほっぺ腫れてね?」
「あー。あの馬鹿に殴られた」
「あの馬鹿って……お前、先輩だぞ」

あの馬鹿、が誰を指している言葉なのか察した佐藤は青ざめた顔で声を抑えてそう言う。しかしそんなこと知ったことかと舌を打った。
しかしなるほど、どうりで体格では勝てなかったわけだ。まだ16の俺にとって一年の差は非常に大きかった。押さえ込まれてしまえば身動きなんて出来やしないのだ。だからこそ、ムカつくのだが。

「おい雅宗、八木高行くぞ」
「あっはい。浅葱は…」
「もちろん参加だ。な、そーまくん」

勝手に決めんなクソ馬鹿野郎が。立ち上がり男と肩を並べ嫌らしい笑みを浮かべる馬鹿にイラっとするが、ジンジンと未だに熱を持ち痛む頬のせいで何も言い返す気も起きずにただ眉間に皺を寄せる。
そもそも始めにいかねーって言っただろうが。そう苛立つ俺に佐藤が気がついて、宥めようとしたのかそれとも気をそらそうとしたのか、俺の背中を軽く叩いた。
佐藤に目を向ければ困ったように笑う。ああ、そういえばこいつ雅宗って名前だったんだっけ。

「雅宗」
「ん?あ、なんか照れるわ」

そう言って笑う佐藤雅宗は滝真、と始めて俺の名前を呼んだ。
雅宗。かっこいい名前だ。


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