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割れた窓から夕焼けが差す。
その眩しさに目を細めながらも、窓の外の赤く染まる空をぼんやりと眺めて一つため息を漏らした。

此処は今は使われていない空き倉庫。
ここら一帯を仕切っている不良グループが数年前から占領し、好き勝手して倉庫の中はすっかり居心地良く仕上がっている。
どこから引っ張ってきたのかソファや机、本棚やビリヤード台までも揃っているのには、よく集めたもんだと嘆息した。それは大体半年ほど前のことだ。


「あん?今日はお前一人なの、そーまくん」
「…。まあ」
「雅宗は…学校か。そういやぁまだ学校の時間か、星渦の奴らは真面目だからそーまくんみたいなのは珍しいわ」

突如現れた制服姿の男に目を向ける。
胡散臭い笑みを浮かべながらソファに座る俺の近くまで寄ってくる男は見覚えがあるものの名前までは知らない。
星渦のものではないブレザーを着崩す男。

この溜まり場に集まる不良は星渦の人間だけではない。むしろ星渦の生徒の割合は少ない。
星渦のような基本が金持ちの集まる私立校よりも、付近の公立の学校の方がよっぽど荒れていた。

「今日は雅宗借りてくよ、なんならそーまくんも来る?隣町の八木高の奴らしめに行くんだけど」
「いや、いっす。喧嘩とかあんま好きじゃないんで」

そういえばこの男が先程から話している雅宗、とは誰のことだろう。ぼんやりと考えるが思い当たる人物が浮かばず、まあいいかとなんとなく視線を宙に彷徨わせる。
汚い倉庫で汚い人間達が、血生臭く互いを傷つけ合う。なんも楽しいことなんかないのに、なぜそんなことを率先して行うんだろうか。
そして、なぜ俺はわざわざ学校を抜け出してこんな薄汚い場所に、自ら進んで来たのだろう。よくわからない。ただわかることは、今は学校にいても、何も楽しいと思えることがないということだけだった。

「はっ、まあそーまくんはお飾りみたいなもんだもんね。喧嘩してその顔殴られでもしたら、きったなくなって、なんの必要価値も無くなっちゃうもんな」
「…」
「ああ、別に今の嫌味とかじゃないから。気にしないで」

誰もお前の言うことなんか気にしねぇよと心中吐き捨てるが、当の本人は俺の顔を伺いながらにやにやと嫌な笑い方で更に煽ってくる。
てか、なんで俺こいつに絡まれてんの?
他に誰ないないのか、と辺りを見渡すが誰かがやってくる気配はなく嘆息する。
早く来たのが間違いだった、こんな風に絡まれるんなら佐藤のことを待つべきだった。げんなりしながらもう構わないでくれ、と携帯に視線を落とすが男はそんなこと御構い無しにじっと俺の横顔を見つめてぺらぺらと話しかけてくる。察せよ馬鹿。

「…そーまくんって綺麗な顔してるよなあ。なあ、星渦の奴らってホモばっかって本当?」
「…さあ。まあ他よりは多いんじゃないっすかね」
「ふーん、まあそーまくんみたいな顔なら俺も抱けそう。ちょっと試させろよ」

下卑た笑みを浮かべて俺の腕を取る男のせいで携帯が手から滑り地面に落ちる。俺を見下ろすその瞳には欲と熱が孕み、ぞわりと肌が粟立った。
ふざけんな、馬鹿も休み休みに言えよ馬鹿。
慌ててその腕を振り払おうとするが思いのほか掴む力が強くてなかなか手は外れない、むしろ腕に指が食い込んで痛かった。

「離してください、俺はそんな趣味ないんで」
「やってみたらきっと気持ちいいよ、みんな来る前にやっちまおうぜ」
「っ、離せっつってんだよ!」

そんな目で俺を見るんじゃねえ。
かーっと頭に血が上り咄嗟に出たのは足だった。蹴り上げた足がノーガードだった男の腹に勢いよく入り、その衝撃に男は地面に転がる。男はしばらく腹を抱えて蹲るが数秒もすれば鋭い眼光で俺を睨みつけて来た。

「てめぇ、調子のってんなよ?!」

どっちがだと言い返そうとして、立ち上がった男の右拳が頬を殴った。脳天が揺さぶられるような衝撃に目が眩みソファに倒れこむ。
頬に走る熱い痛み、口内に広がる鉄の味に顔を顰めた。上体を起こそうとするが軽い脳震盪でも起こしているのか上手く体が動かない。
やばいと思った直後、男は俺の腹の上に跨ると荒い呼吸で額に脂汗をかきながら笑った。

「へ、へへ…黙ってそうしてりゃいいんだよ…これ以上ブサイクになりたくなければな」

勘弁してくれどんな悪役だ、とすぐにでもひっぺ返そうとするが俺よりも体格のある男には敵わずにソファに手足を押さえつけられてしまう。
男の舌が無遠慮に首筋を伝い舐め上げて、そのナメクジが這うかのような気色の悪い感覚に鳥肌が立った。

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