summer time





開けっ放しの隣の仮眠室の扉、その向こうから聞こえてくる寝言ーもにゃもにゃと何と話しているのかは聞き取れないがーにがたん、と先程からそわそわと落ち着きのなかった赤城が組み換えようとした足が机にぶつかった。突然の大きな音に肩が跳ねるが赤城は不機嫌そうに舌を打つだけで何も言わない。しかしその様子は苛々しているのが見ただけで伝わってくる、ぴりっとして乾いた空気に混じって聞こえてくる場違いにも程がある寝息の音が、更に彼の機嫌を損ねるのだろう。

不機嫌な赤城と気持ち良さそうなたまに寝言混じりの寝息、そしてどうもこの空気に居た堪れなくて仕事も集中できない俺。一体なんなんだこの状況は、平和な夏休みはどこへ行った。
ふと30分ほど前のことをぼんやりと思い返すのであった…ー


**


クーラーの効いた室内は随分快適で、口内でじんわりと溶けていく棒キャンディーの果汁の甘みに目を細める。甘いものは苦手だったが夏のアイスばかりは別物だ。
夏休みに入って一週間が経過した、窓の外の強く照りつける太陽がギラギラと輝いている。
夏休みに入る前はさほど暑くなかった気がしたがここ最近ニュースでも取り上げられている、連日続く記録的な猛暑日に辟易としていた、これが夏なのである。

「まじで生徒会長とか損な役割だよな、しかも役員達にはすっぽかされるなんて…夏休みまで生徒会室で一人お仕事か、ご苦労なこって」

「…東さん。もう一度聞きますけどあんた、何しに来たんですか」

「え?可愛い後輩が元気にやってるかと思って。それだけだよ、そーま」

そう言ってウインクをする色男に目眩がする。別に色気に当てられたとかそういうわけじゃなくて、ただ単にうざったかっただけだ。
東さんはそんな俺の様子におかしそうにケラケラと声を立てて笑った。ひとしきり笑い終わると一度考えるようなそぶりを見せて、そうして端正な顔に妖しい笑みを浮かべる。その表情が当時はよく見た覚えのあるものだったから懐かしいな、と思うが大体こういう顔をする時のこの人はろくな事を考えていない。げんなりとしながらも放っておくには少々心配というか不安というか、まあ言ってしまえば目を離したくないので扱っていた書類を机の端に置いて嘆息した。放って仕事なんかしていたら何をされるかわかったもんじゃない。

「お前、今超失礼なこと考えてんだろ」

「そんなこと…ありますけど。あんた、もうお客さんの立場なんですから大人しくしてて下さいよ」

「否定しろよ!…まあ別になんもしねーよ、安心して仕事に集中してくれ」

全く安心して仕事に集中なんてできない。鼻歌交じりで自身の飲み物を勝手に入れ始める東さんにため息が漏れた。
東翔(あずましょう)。前年度の生徒会長を務めていた男で、俺たちの一つ上の先輩だ。去年星渦学園の高等部を卒業してからそのまま持ち上がりで大学部へと上がったらしく、俺が彼と顔を合わせるのは実に卒業ぶりである。
元生徒会長というだけあってその顔付きは非常に端正で学力や家柄も文句のつけようのない完璧マンだ、彼の下で生徒会の仕事を手伝っていた時にはその器用さや指導力に尊敬し憧れたりした事もあったかもしれない。…まあ、今も彼には頭が上がらないのだけれど。

「東さん、ほんと…余計なこととかしないで下さいね」

「お前も一丁前に言うようになったな!先輩、しみじみしちゃう…」

「ちょっと気持ち悪いので黙ってもらってもいいですか」

「お前本当相変わらずどぎついね」

苦笑する東さんに頼みますよ、と念押しすればわかったよと投げやりに返事を返されてやはり不安になる。実際頭もいいし俺なんかよりも全然要領もいい、すごい人なんだけどなんというか不安になる。今も何にもわかっちゃいなさそうなのがどうも気になってしまうんだと嘆息した。

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