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「…ぃ、ーーおい、浅葱」

誰かが俺を呼んでいる。
揺蕩う意識の中から引きずり出されるように、その声に覚醒に導かれてゆっくりと目を開ける。
ぼんやりとした意識の中、肩を揺さぶり俺の名前を呼ぶ人物にそっと顔を上げた。


「ー…佐藤」
「もう昼。そろそろ動かねぇと飯食い損ねるぞ」

「ほら、食おうぜ」と購買で買ったパンやおにぎりを机の上に広げるクラスメイトの佐藤に頷いた。

佐藤雅宗。
俺のクラスメイトであり同室者の男だ。
気立てが良く誰とでも仲良くなれるような気質で、珍しい高等部からの編入生だった。しかし彼は中等部からの持ち上がり組にも、そして学園のシステムにも上手く馴染んでいるため、到底そんな風には見えない。

奥歯で欠伸を噛み殺しながら卓上に散らかるおにぎりを適当に一つ手に取る。佐藤はそれを確認すると代金は後でいいぜ、と笑った。

「にしても寝すぎじゃね?昨日遅かったのはわかるけど4時間ぶっ続けって」
「…まだ寝たんねぇ…飯食って寝る…」
「嘘だろ。飯食って…って、もはや食事中でさえ半分寝てるじゃねぇか」

絶妙な塩っ気の効いたおにぎりを味わいながらも、続く眠気に勝てずにこっくりこっくりと舟を漕ぐ。呆れたような佐藤の姿がなんとなく視界に映ったがすぐ重たい瞼は閉じて行った。

昨晩寮の自室に着いたのは何時だったか。
今朝起きて学校まで来るのがやけに大変だったけれど、そんなに部屋に帰るのは遅かったっけ。あまり覚えていない。
ただ一つ、昨晩は同室である佐藤に引っ張られながら部屋に帰り、今朝は引っ張られながら学校まで来たことはわかっていた。
いろいろと悪い。呟くように口から出た謝罪は聞こえたかどうかわからないけれど、どうでもいいや。そうして、そのまま意識を手放した。




「おい、浅葱。浅葱?…おい…まじかよ、こいつ」

悪い、と寝言のように呟いたかと思うと、そのまま机に突っ伏して意識を手放してしまった目の前の男にもはや感心する。
その片手には申し訳程度にかじられたおにぎりが握られている。しかしその腕は段々と力が抜けていっているのか、徐々に重力に従って落ちて行く。
危ない、このままだとおにぎり落とすぞ。
慌てて浅葱の持つおにぎりを回収すれば間一髪だったのか、おにぎりを失くした片手はそのまま机の下に垂れて行った。
ほっと息をつく、前々から感じていた事ではあるがこの男なかなかの強者である。そもそも食べながら寝るか普通?聞こえて来た寝息の音に一瞬呆けるが、次第に喉の奥から笑いがこみ上げて、ついには耐えきれなくて声を出して笑った。

周りのクラスメイトは何事かとこちらに視線を向けるがそんなの御構い無しだ。面白すぎる、夜更かししたら昼間全く活動できないなんて不器用にも程があるだろ。

「おもしれーやつだな」

生徒会長直々に、夜抜け出して遊びにいくのを許すかわり、学校を休むのは許さないと言われてしまえば登校する他ないのだが、今後もこの調子じゃ先が思いやられるな。
せめて夜をもう少し早めに切り上げて部屋に帰ることができればいいんだが…まあ、それは上が決める事で、下っ端の俺たちに何かを意見する権限はない。

始まったばかりの高校生活は多少思い描いていたものとは違ったけれどこれもまたありだろう。
窓の外に広がる青空に、ゆったりと思いを馳せるのであった。

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