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相良にはずっと人に言えない悩みがあった、それもあのレイプ未遂事件が起こる前からずっと。
それは家のことだと言う。秋が話してくれた事情…相良の家の、分家の子である成が、本家の後継である秋の体が弱いからと本家に養子として貰われたという事に、相良成も成なりに悩んでいたようだ。
そんな悩みをレイプ未遂事件をきっかけに頻繁に話すようになった戸際がふと気がついて、気にかけてくれるようになったと。
しかしそれで悩みが解決するわけでもない。ついに追い詰められた成は自ら命を断とうとした。

しかしそれも気持ち半分だったのかもしれない、むしろ誰かに止められたかったと成は言った。
わざわざ戸際を呼びつけ、今から飛び降りると宣言したうえで、止める戸際を挑発するように笑ったのだ。
俺のこと、助けたいんだろう。助けられるもんなら助けてみろよ、と。止める戸際の声を振り切り相良は窓から飛び降りた。
戸際が話さなかったのはきっと成自身を思って、プライバシーを守ろうとしたんだろう。

あの時、俺がどうしても戸際の口から知りたかった事件の全貌はこうだった。それは実に呆気なく、成自身の口から聞かされる事になったのだった。

「…なんだよ、それは。」

「…戸際くんは自分を責めていると思う。あいつは何も悪くない…俺が全部悪かったんだ」

その話が終わった時、相良は泣いていた。
大粒の涙をポタポタ地面に落としながら静かに鼻をすするその姿は、もともと小柄な相良を余計に小さく見せた。
お願いします。戸際くんを許して、助けてあげて。そう言って声を震わせる相良に俺は何も言えなかった。あの時の傷ついた戸際の姿がフラッシュバックする、まさかそんな事があったなんて。それこそ、言わなきゃわからないだろうが。
想像をはるかに上回るそれに軽くめまいが襲いくらっとするが、二人の手前倒れるわけにもいかない。
こちらをじっと見つめる加賀谷の視線に俺はきつく瞳を閉じた。
どうするも何もない、今の俺には戸際を一方的に呼びつけて話をすることなど出来なかった。一体どんな顔をして話をすればいいというのだ。時間が解決するとは思ってはいなかったが、それでも今呼び出すのは違う気がした。もう少し俺にも、戸際にも時間が要る。必要なのだ。



生徒会内で数々の問題を残しても、否応無しに時間は過ぎていく。ーー…明日から、夏休みが始まるのだ。
生徒会室内に成のすすり泣く声が反響して、つい耳を塞ぎたくなる。誤魔化すように窓の外に視線を移すと太陽が強く照りつけていて、窓に光が反射していた。それを直接見てしまい、焼けつくような痛みが目の裏を襲った。
このまま、何も見えないように深く目を瞑ってしまいたかった。


episode.4 END

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