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「なんだ…晴。お前の見回りはここじゃねぇだろ」

入室した晴に、いつにも増して不機嫌そうな顔をする加賀谷。邪魔が入ったと言わんばかりの加賀谷のその様子に俺はほっと息を飲み込んだ。とりあえずは首の皮が一枚繋がった、と言う感じか。この間に何か言い逃れの材料を探さなければ。そう心中穏やかでない俺だったが次の晴の言葉にそれどころではなくなる。

「いえ、先程生徒会の副会長が加賀谷さんに至急確認してほしいと書類を持ってきたので報告を」

俺を一瞥し、すぐに加賀谷に向き直る晴の台詞に訝しげに眉を寄せた。
北条が、なんだって?
まさか、ここ最近の北条の様子を知る俺は到底晴の言うことが事実だとは思えなかった。あの頑なに響のそばを離れなかったあいつが、真面目に仕事だと?ありえない、会長である俺が言うのもなんだが今のあいつに仕事に対してのやる気やら何やらは全くと言っていいほど感じられなかった。そんなあいつが間違ったって、俺の知らないところで仕事など…するもんか。

加賀谷もいくらかは生徒会の事情を知っているのか、いまから俺に問いただそうとしたその事とは相反する情報に眉間にシワがよっている。
そりゃそうだろう、生徒会役員は揃いも揃って全員ここ最近授業には参加せず、そのくせ生徒会に回る仕事は遅れ気味。これは怪しい何かあると踏んでいざ生徒会室に突撃すれば溜まる書類と生徒会長一人がソファに沈んでいる。となれば、言い逃れは出来ないほど、状況証拠は完璧に揃っているわけだ。
そこに不可解な情報が入り込めばそんな顔にもなる。この場で唯一穏やかな笑みを浮かべる晴に、これは何かあるな。と察し、ならば余計なことは言わない方がいいと口を噤んだ。

「…本当かそれは」

「はい、つい先ほどのことですから」

「用件は?」

「期末試験の日程表とその後の夏休みについての書類でした。試験の日程に修正があったみたいで明日の朝の職員会議までに間に合わせたいとのことです」

「…そうか、わかった」

どうも腑に落ちないというような顔で渋々頷く加賀谷に眉をあげる。これはもしや、今日のところは引き下がってくれるのではないだろうか。そんな期待を隠しながら加賀谷を見つめれば、加賀谷は俺に視線を移し、呆れたような顔をした。

「なんでもいいが、再来週には期末試験だぞ。ろくに授業に出席してないお前の未来が見える」

「…考えないようにしてたんだ、やめてくれ」

「…この書類、半分預かる。明日の朝取りに来い」

「は…?ちょ、」

言いたいことだけ言って、積み重なる書類を半分手に取り晴に渡す加賀谷に目が点になる。一体期末試験の話の流れからなぜそうなる、というか書類を持って行って何をする気だと加賀谷を引き留めようとするが、当の本人はなんも話を聞かずにさっさと生徒会室を出て行ってしまった。
その後ろ姿をぽかんとしながら見つめ、はっとする。残された晴も同様に、渡された書類を手に固まっているが一度顔を見合わせて苦笑を漏らした。

「多分今日は帰るの遅くなるねこれ」

「まさか手伝うって言うんじゃ…」

「そーいうことだろうね。下っ端にも手伝わせるかはわからないけど。兄貴、今日は加賀谷さんに甘えてしっかり休むんだよ」

俺も余計な嘘ついちゃったし加賀谷さんには媚び売っとかないと。と舌を出す晴にやっぱりか、と嘆息する。期末試験の日程表も、夏休みの要項をまとめた書類も全て俺が先日まとめ上げ風紀に提出したものだった。書類を両手に抱える晴にありがとな、と礼を言う。
兄のピンチを救うのは弟の役目だと胸を張る晴に頼もしい限りだと笑い、加賀谷の後を追いかけるよう出て行く随分頼もしくなった晴の後ろ姿を見送った。

「俺も帰るか」

一人残された部屋で呟く。
仕事を押し付けるような形になってしまい思うところがないわけではない。しかし今は加賀谷と晴を追いかけ、やらなくていいと加賀谷の申し出を跳ね除ける元気はどこにもなかった。明日の朝コーヒーでも奢ろう。心の中で加賀谷すまん、と謝罪をしながら、生徒会室を施錠してふらつく足で寮への道を歩き始めた。

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