12
「快斗、」
二人残された部屋で初めに沈黙を破ったのは俺だった。快斗の名前を呟くように呼ぶと、快斗は目線だけこちらにゆっくりと向けて、力なく笑った。そしてそのまま崩れ落ちるようにソファに腰を落とす。慌てて駆け寄れば快斗は乾いた笑みを浮かべた。
「響。悪い、こんな事になって、」
「そんな事、俺は別に」
「いらない、って…言われちゃったな…」
俺、ここしかないのに。会長しか、滝真先輩しかいないのに。震える唇で言葉を落としていく快斗に胸がぎゅっと痛くなる。生徒会室に飛び込んで来た会長の姿を、そして先ほどの快斗と会長のやり取りを思い出して唇を噛んだ。
会長は、けして怒ってるわけじゃないんだ。快斗のことを心配して、ついきつく言ってしまったけど、本当に心配してて、…。
俺は分かっている。会長の気持ちを。俺なら快斗と会長の仲を元に戻すのだって簡単だろう。けれど、俺はやらなければいけないんだ。風紀のため、学園のため…会長のために。生徒会をバラバラにさせなければならない、それが俺の役目だから。
そうして、意を決するように息を飲み込んだ。
「はぁ…、なんでこうなるんだろうなぁ…」
「俺には、お前が必要だ」
「…響?は、何言ってんのお前」
会長の本意を知り、理解できるのは俺だけでいい。そうやって全てを飲み込んで吐き出す言葉は、どこか息苦しさを拭いきれなかった。
「もちろん生徒会にだって、お前が必要だ。…なあ、快斗にとって会長は理由だったんだろ?」
「理由?」
「生徒会で頑張る理由。なあ、会長じゃなくて俺が理由になれない?快斗、俺のために、俺のそばにいてくれないか」
心臓が強く脈打つ。どきどき、ざわざわする胸中を悟られまいと、驚いたように目を丸める快斗を真正面から射抜くよう見つめる。
不安感と緊張感、そこに何かを期待する高揚感なんてなに1つなかった。快斗はそんな俺に微塵も気がつかずに、少ししてからおかしそうに笑った。
「なんだよそれ、告白みたいだ」
「…本気なんだけど」
「わかってるよ。…わかってる。俺にとっての理由は、あの人だった。……」
そうでもしないと、本当に辞めそうだ。自虐的に言う快斗は口に笑みを浮かべながら俯いた。
いつもより小さく見える快斗の頭に手を乗せそのまま撫でる。同学年の男同士でする事でもないけれど、今はこれが一番いい気がしたんだ。快斗は一瞬驚いたように目を見開いたが、そのまま何も言わずに俯き静かにしていた。
俺は、今後待ち受ける生徒会の未来を思い浮かべて目を瞑った。きっと一波乱起きる。否、起きるのではなく俺が起こすのだ。
俺はそのために、ここにいる。
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