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「会長、」

現れた戸際は、酷い顔をしていた。
顔は青ざめ足取りはおぼつかない。その様子にぎゅっと心臓が鷲掴みされたような痛みを覚える。なんて面してんだ、馬鹿、と誤魔化すように言えば戸際はすぐ逃げるようにして目を伏せてしまった。

「…なにしてんだよ。相良と何があった?」

「…俺、…本当にすみません、」

震える声ですみません、と繰り返す戸際に口を噤む。何がすみませんなのか、迷惑をかけて、何も話せなくて、…こんな問題を起こしてしまって。
戸際が何かしてしまったんじゃないか、嫌な想像がぐるぐる頭を駆け巡る。違う、こんなこと考えたいんじゃない。俺は戸際を信じている、加賀谷だって戸際は悪くないと言っていたじゃないか。何があったか話してさえくれれば、俺にだって戸際を助けられるはずだ。戸際にこんな顔させたくない、こんな顔させないのに。
戸際の腕を掴む。掴む手に無意識のうちに力が入ってしまって、戸際の顔が歪んだのに俺は気がつかなかった。

「なにがあったんだ、戸際」

「…」

「なんで…なんでなんも言わない?お前はなにもしてないんだろ?悪くないんだろうが」

黙り込む戸際に焦りからか次第にイラつく。
なにも言わないということは何かしたというのか。それとも言えない事情でもあるのか。加賀谷には話せて、俺には言えないというのか。
俯きなにも話さない戸際に唇を噛み、やりようのない焦りに口から衝いて出たのは戸際を責める語ばかりだった。

「話してくれないか。なんでなんも言えないんだよ」

「…」

「…なあ、聞いてるのか。なにか言えよ、おい、戸際!」

すみません。先程からそれしか言おうとしない戸際に感情が昂ぶるのが自分でもわかった。何か言い返しでもすれば俺ももう少し落ち着けたかもしれない。
しかし、何も話そうとせず何も弁解しようとしない戸際に、どうしようもない感情が湧き上がる。
なんで戸際は言い返さないんだ。俺が会長だからか?俺が年上で先輩だからか?俺が信用出来ないからか?ああ、癪に障る。止まらない、湧き上がる感情が止まらない。…お前なんて、戸際なんて、

「問題を起こす奴はうちにはいらねえ!」

止められない感情をそのまま吐き出すように、ぴしゃりと言いのけた。
体をビクつかせ驚いたように目を丸める戸際と視線が絡む。そうして数秒、戸際は顔をぐしゃりと歪めると顔が見えなくなるほど俯いて、そこで俺は戸際を傷つけたのだと知った。

「すみません。」

震える声で言い放つ言葉は、やはりそれ。
痛々しいほどのその姿と、繰り返される謝罪の言葉に俺は、もう何も言えずに、逃げるように部屋を出て行った。

もう戸際の姿など見ていたくなかった。
そして傷ついた戸際を前に、何故か湧き上がる苛つきを抑えきれない自分がどうしようもなく嫌だったのだ。

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