10
大変なことになった。
どれくらい大変なことかと聞かれればそれはもうどうしようもないほど大変なことだと答える他ないくらいには、余裕がなく焦っていた。
駆け足で廊下を進んだ先には生徒会室がある。先程の加賀谷からの連絡が本当ならば大問題だ。焦る気持ちを静める事も出来ないまま、ようやくたどり着いた生徒会室前で足を止め一度息を整える。そして、閉じた扉をまどろっこしく感じながら勢いよく扉を開いた。
「戸際はいるか?」
その勢いに驚いたようにこちらに目を向けるのは響だ。室内をそのまま見渡せば他の役員たちは出払っているようで響以外の姿は見えない。一人きりの響に、あいつらがこいつを放っておくなんて珍しいこともあるもんだと思う。いや、今はそんなことどうでもいい。それよりも戸際だ。
「えっと、いませんけど…」
「っち…どこ行ったんだあいつ…」
「快斗がどうかしたんですか?」
普通ではない俺の様子に気がついたのか、訝しげに眉を寄せて訊ねる響に口を噤む。
言うか、言うまいか少し迷い視線を宙へ向けた。しかし黙っていたところできっとすぐにでも、響の耳にもその話は噂となって入ってくるだろう。その時聞くのが正確な情報だとは限らない、ならば今教えてやるのが響にも、戸際にもいいのではないか。
神妙そうな顔で会長、と呟く響に小さく息を吐いた。
「…以前、球技大会中にトラブルが起こっただろ。相良成を覚えてるか」
「加害者の元カレですよね、快斗と相良の関係に嫉妬した加害者が、競技中快斗に嫌がらせして怪我負わせた…」
「そうだ。その相良が…」
そこでなんと言ったらいいのか適当な言葉を探すが、結局見つからず言葉に詰まってしまった。
怪訝そうな顔の響は先を急かすように相良が?と続ける。相良が…そう、秋の義弟の相良成が。
動揺から視線を少し彷徨わせて、正面を見据える。ぐっと口を引き締めた。
「相良が、窓から転落した。幸い木や植木がクッションになって命に別状はないようだが意識はまだ戻らないそうだ。…その場には戸際もいたらしい」
ひゅ、と息をのむ音がここまで聞こえてきた。目を見開き言葉を失う響。静まり返った室内で響は、快斗は…と震える声で言った。
「風紀に事情を話してとりあえずは帰されたらしい。生徒会室に寄るよう伝えたと聞いたから急いで来たんだが…」
加賀谷曰く、戸際からの話を聞いた上で、現場の様子から見ても事件性はないだろうとのこと。あとは相良が目を覚まして話を聞くことができれば警察に通報するまでもないだろうということらしかった。
まさか戸際に限って事件性のある事…など、しないはずだ。本当にそう思っているし、本人も言っている通りきっとなにかの事故なのだろう。しかし本人の口からきちんと事情を聞かなければ気が済まないのも事実。一体なにがあったのか、なぜ二人で会っていたのか、…相良には、面倒ごとに関わるなど言ったのに…あの馬鹿は。
苛立ち気に舌を打ちソファに腰を落とした時だった、徐ろに生徒会室の扉が開く。
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