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「あ…赤城、」

俺の制止も聞かずにスタスタと無言でソファへ向かっていく赤城に嫌な汗が大量に吹き出していく。
立ち止まった先は、案の定岩村の目の前。
笑顔のままの赤城の右手には水の入ったグラスが握られていて、それは彼が岩村の前に立ちはだかりニッコリと完璧な笑顔を作った僅か2秒後、無情にも逆さにされた。

「っ?!つめった!!てめぇ、おいっ!いきなりなんだよ!」

頭から水を被ることになった岩村は目を剥き今にも殴りかかるのではないかと、そんな勢いで赤城の胸ぐらを掴んだ。岩村の口から出てきた汚い言葉に、あいつがあそこまで取り乱すのも珍しいなと場違いにも程があることを思うが今はそれどころではない。
驚きすぎて言葉を失う響と、どうしたものかと戸惑う俺、そしてまさに一触即発の二人。一方が牙をむき出し敵意全開の割に、もう一方は笑顔を乱さないのだからこれまたタチが悪い。

「ほんっとーにお粗末な頭ですね貴方は」

「はっいきなり水をぶっかけて来るような気狂いが何を言ってんだよ、お前の頭の方がお粗末だろ!」

「…はあ。もはやそこまで来ると哀れですよね。少し前はまだ鼻に付く程度で済んでましたが最近のてめぇの盛りは既に公害以外の何物でもありません」

あ、これダメなやつだ。と悟る。赤城のあの様子は顔は笑っているが内心ブチギレているのだろう。丁寧な言葉の所々に織り込まれる“てめぇ”呼びと最初から最後まで吐かれる毒に一体どんなキレ方だよ、と呆れるがあいつが自分から喧嘩を売りにいくのだ。よほど頭に来たのだろう。少し好きにすればいい。こちらに助けを求めるような目で俺に視線を向けて来る響を手招きした。

「こっちにいろ。怪我でもしたら面倒だ」

「かっ、会長…あれ止めなくていいんですか?ってか、赤城さんってあんな感じ…?」

「あいつら仲悪いから仕方ないだろ。コーヒーおかわりいれてくれ」

「仲悪いで済む話ではない気が…あっ、はい」


「なに、結局俺の存在がうざいってだけ?会長の親衛隊長は随分と野蛮なんだねーこんなんじゃ会長も一苦労だわ」

「先程からきゃんきゃん喚きますね…。てめぇは何故ここにいるのですか?てめぇは何者なのですか?ここにいていい人間は生徒会の役員のみですが」

「はぁ?俺は生徒会の役員だけど?お前こそ役員でもない人間のくせになに入って来てんだよ」

「おつむが弱いのもここまで来ると笑いものです、役員ならこの部屋でなにをするんでしょうか。盛りにくるんですか?ちげぇだろ仕事をしに来るんですよね。役員という甘い蜜を吸うだけ吸って仕事もしないなんて。名ばかりの役員などいらねぇよな、辞めちまえよ」

赤城が一息で言い放った後、数秒二人は静かに睨み合った。お互いの目の色は静かに燃えている。どこか冷静さを残す二人の姿に、あの調子なら殴り合いにはならないだろうが、そろそろいいのではないか。
おずおずといれてきたコーヒーを差し出す響に一言礼を言って、それを口まで運んでいった。

「もうやめろよ、邪魔だよお前」

「…部外者が、何も知らないくせに」

最後に、畳み掛けるように追い打ちをかけるよう赤城が言う。
岩村はきつく唇を噛むと、掴んでいた赤城の胸ぐらを離し吐き出すように最後の言葉をつぶやいた。
岩村は、それは酷い顔をしていた。

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