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ふと机の上に付箋の貼られた書類が、目に留まった。付箋には日付が書かれておりそれは今日だということに気がつく。
おや、と思いながら書類を手にして目を通していくとそれは広報委員会が用意した原稿のようで、サイン欄には校閲済みの判子が戸際名義で押されていた。
なるほど、戸際は用事があって届けられないから後は頼んだというところか。書類をひらりと掲げながらソファに腰掛け楽しそうに騒ぐ3人に声をかけた。

「おい、誰か広報委員にこの書類届けに行ってくれ。校閲が済んだ原稿だ」

「…」

「…」

先程までの元気は何処へ。それぞれ口を閉ざし、誰も名乗りを上げずにお互いの顔を見合わせる3名においおい…と呆れる。どんだけ仕事したくねーんだよ、そりゃ遊んでる時に仕事押し付けられたらいい気はしないのもわかるが、実際は今遊ぶほうがおかしいんだからな。
傍で事の次第を見守る赤城の存在を感じながらも抑えきれないため息をながーく吐き出した。


「それじゃあ北条。行ってくれ」

「…わかりました」

この時間が無駄だと適当に目の合った北条を文句を言われるの承知で指名するが意外な返事が返ってきた。
おや、やけに素直。と眉をあげるが北条も現在自分が仕事をサボり遊んでいると自覚しているということだろうか。ついでに赤城という部外者がいるから変に文句も言えないという感じか。
まあなんでもいい、文句の一つや二つ出てくると思っていただけに素直に引き受けてくれてほっとした。
ソファから立ち上がり原稿を受け取る微妙な顔つきの北条に頼むな、と一言言い渡した。

「いってらっしゃい!」

そう言い手を振る響に、瞬間にこやかに笑みを浮かべ、すぐ戻りますね。と軽い足取りで部屋を出て行く北条。随分俺との態度に差があるじゃねーか。自然とひきつる口元を誤魔化すように右手で覆い隠した。


「いえーい、二人きり。めぐるー、いい匂いするね〜」

「やめろって、近い」

北条がいなくなりソファには二人だけが残る。途端に甘えた声を出し響の首元に擦り寄る岩村にいやでも目がいくが、ちょっと待て。本当に二人きりのようにいちゃつき始めたが勘違いするな、二人きりなんかじゃないぞ、俺たちの存在を消すんじゃねえ。
そんな俺の想いなんて知ってか知らずか、明らかに先ほどより増えてきたスキンシップにまじであいつの中では俺たちの存在を綺麗さっぱり消してるんじゃなかろうかと片眉をあげた。

もともと岩村はチャラ男と呼ばれてた男だ。岩村が醸し出すその独特の雰囲気は流石というか、敬服せざるを得ない。
直接その色気に当てられている響は顔を赤くさせて必死に距離を取ろうとしているが岩村はそれを許さなかった。

「めぐる好きだよ〜」

「はっ、?!す、好きとかそんな簡単に言うなよ!大切なことだろ?」

「だって好きなものは好きなんだもん。仕方なくない?」

「うわぁっ!りゅ、龍生っ」

はて、俺たちは何を見せられているのか。
俺たちに対する当てつけか、嫌がらせのつもりなのだろうか。俺たちを顧みようとしないその行動と室内に漂う甘ったるい雰囲気に徐々に眉間に皺が寄っていく。イライラとし始めている自分に気がつきハッとするが俺でさえこんななのだから赤城なんて一体どんなことになってしまってるのか…。恐る恐る赤城を振り返れば、案の定というか。

「…」

ニコニコと作り笑顔が張り付いたまま取れない様子の赤城に肝が冷えて行く。笑顔のまま二人を見守る姿は恐怖以外の何物でもない、これは喧嘩になるのも時間の問題かと危惧して赤城を部屋から連れ出そうと立ち上がった時だった。
俺の行動は、些か遅すぎたようだった。


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