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騒がしい生徒会室の扉を開き一歩室内に足を踏み入れた。一瞬にして集まる視線と静まりかえる室内に、なんつーお出迎えだよ。と散々な反応に眉を顰める。

部屋を見渡す限り戸際の姿は見えない。まるでホストクラブか何かのように、響を挟んで座る北条と岩村との3人の姿に、大きなため息を吐き出しそうになるのをぐっと堪えた。
どう見ても仕事をしていた気配など微塵も感じさせない。彼らの手元のスマホからはなにやら楽しげなBGMが聞こえてくる上になかなかの盛り上がりを見せていたようだ。
ここは何か言うべきだろうか、お前ら、と口を開きかけたところで不意に岩村と視線が重なった。

「…」

あの言い合いから何日か経ってるが、岩村とは一度も顔を合わすタイミングがなかった。
続けようとした言葉も忘れてしまい、なんとも言いようのない気まずさにゆっくり口を閉ざした。
どんな顔をしたらいいのかわからなかったのは岩村も同じだったのか、岩村は一度視線を彷徨わせると、取り繕うようににこっとあからさまな作り笑顔を浮かべて何か言葉を探すように口を開いた。

「あー、…おかえりー。来たんだねー、今日もう来ないかと思ってた」

「…仕事が残ってるからな」

「そ。大変だね」

人ごとのように頑張って、と続ける岩村になんだよそれ、とむっとする。
しかしすでに彼らは俺に興味をなくしたのか、さっさと視線を手元のスマホに移してしまっている。相変わらず癇にさわる態度だ。
文句を言う気力も、怒る気力も湧かなくて、はっと鼻で笑う事で行きようのないこのもやもやを誤魔化す他なかった。


「赤城、コーヒーいれてくれ」

「はい。皆様、失礼致しますね」

俺の後に続いて入ってきた赤城の姿にまたも視線が集まるがもう知ったこっちゃない。
赤城はいつもの如く、否いつにも増してその顔に胡散臭い笑顔をべったりと貼り付けると、こちらを凝視する3人に会釈をした。そのまま慣れた足取りでコーヒーを入れるために棚へと向かっていくのを確認して、俺も自分の机へと移動する。その途中ふと視線をソファに向けると、響も北条も興味なさそうにすぐ視線を戻していたが、岩村だけはそうではなかったのに、見ているとすぐに気がついた。

「…」

苛立ち気な顔で赤城を見つめる岩村。赤城はそれに気がついているのかいないのか、素知らぬ顔で機嫌良さそうにカップを取り出している。あの様子だと気がついていないということはなさそうだ、本当にどこまでも意地の汚いやつだ。
岩村からしたら同じ空間にいるというだけでも嫌なのか、すぐに視線を外し響たちの会話に混ざるがどこか落ち着きがなく見えるのもそのせいなのだろう。
そういえば赤城を役員たちのいる時にこの部屋に入れた事はなかったな。パソコンを起動させながら彼らを眺めるが、ゆったりと薫ってきたコーヒーの香りに目を細めた。

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