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「だから言ったんだ。あれほど辞めておけと…。この間だってなんだよあれ、全部押し付けて自分はさっさとどこか行くなんて酷いだろ」

ぐちぐちと赤城の口からは文句が勢いを増して落ちて行く。数分前から始まった、とどまることを知らないそれは永遠に続くのではないかとも思えて来るがそんな事あったらたまったもんじゃない。
大体なあ、とまだまだ続きそうな赤城の台詞を、これはまずいと大げさな声を上げて遮った。

「そういえば。さっきの会議、あとはお前に任せるぞ」

「え?ああ、まあそれはいいけど…こっちで好きにしていいって事?」

「まあ、最低限の要望だけ聞いてくれればな。役員たちとのお茶会とか…そういうのは悪いが勘弁してくれ」

苦虫を噛み潰したような顔でそう言えば赤城は可笑しそうに笑って頷いた。
先程まで繰り広げられていたのは生徒会会長親衛隊幹部会議、などという大そうなネーミングの会議だったわけだがその内容は、まあ驚くほど和やかなお茶会だった。
俺の親衛隊幹部だという生徒が4.5名と隊長である赤城と俺で卓を囲み、用意されたお茶と茶菓子をかじりながら世間話をする。まあ中にはこれからの方針だったり、現在の親衛隊内部の報告も受けたりしたが、それも含め最初から最後まで和やかだった。
恥ずかしながら幹部会議は初めての参加だったのだが、彼らの動揺っぷりを見る限りよほど俺が参加したのが信じられなかったのだろう。彼らは揃いも揃って、青いのか赤いのかよくわからない顔色で始終落ち着きがなかった。
まあ確かに俺も悪い。今まで自分の親衛隊なんて好きにしていろと散々放っておいたのだ。それを今更なんだと、もし自分が彼らの立場だったらそう思うだろう。
それを、彼らは目に涙を浮かべながら本当に嬉しそうに俺とくだらない世間話をするのだ。
これに心動かされない奴がいるだろうか。否、いないな。1時間弱話をしたところで次回の会議の日程を決める時、俺は予定帳を開きここなら大丈夫だと無意識のうちに言っていた。その時の幹部たちの顔は今でも頭から離れない。そうして、次回の予定を決めて、今日の会議はお開きになったのだった。


「それにしても、よかった。会長が向き合ってくれて」

「まあ、この前散々お前に言われたしな」

あー、あれね。と素っ気ない返事を返す赤城に、俺はあれがあったから行動を変えたのだと念を押す。
俺を変えたのはお前だと、しっかりわかって欲しかったためなのだが、赤城はそんなこともあったね、と存外軽く返事するのみで俺の話を真剣に聞こうとしない。
こういう態度だよな、とため息を吐けば赤城はそんな俺の様子をじっと見つめていた。

「なんだよ」

「会長ってさため息つくの癖だよね。幸せにげるよ?」

「…余計なお世話だ」

それは図星だった。以前まではそんなにため息も吐かなかったはずだが、どうしてか今年度に入ってからはついついため息をついてしまう。そんな風にため息が癖になりつつあることに気がついたのはここ最近なのだが。
赤城は図星を指したことに嬉しそうに笑った。

「まあ幸せが逃げたとしても俺が不幸を跳ね除けて差し上げますから。むしろ俺が幸せ運んでくるからウィンウィン?」

「は…なんだそれ。それは随分頼もしいことだな」

「ふふ、当たり前です、貴方の隊長ですから。さて、今日はこの後どうするの?生徒会室戻って仕事してく?」

「ああそうだな、一つ仕事が残ってるから戻るか。お前も来るか?」

「そうだね、行こうかな。帰り買い物付き合ってよ」

「時間次第。そんなすぐに終わらないぞ」

わかっていると口に出さないままに頷く赤城の隣を歩いていく。

溜まっていた仕事が少しでも進んでればいいんだがな…。
これから行く生徒会室内を思い浮かべて、またため息を吐きたくなる。それを飲み込んで、窓から差す夕焼けに染まる廊下を2人並んで歩いて行った。

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