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「いや、…突拍子も無い事いうなよ。なんだよ生徒会やめるって」

流石に話が跳躍しすぎじゃないか、と笑う。
岩村は目だけ俺に向けると、口に入ったパンを流しこもうとコーヒー牛乳のパックに刺さったストローをくわえた。その様子を見つめながら、ふと頬を撫ぜる風を感じて目を細めた。随分風も暖かくなった。いや、むしろ最近は少し暑いかもしれない。風も湿気を含んでいて、いつのまにか夏の匂いがした。

「…別に。会長が辞めるんだったら俺もすぐにでも辞められそうだとは思うけど」

「なんだよ、お前生徒会辞めたいって思ってたのか?嫌々やってたのかよ」

岩村の口から出てきた言葉に信じられない思いで息を詰めた。まさか岩村がそんな風に思っていたなんて知らなかった。冗談にしてもタチが悪い。それでも嘘だといって欲しくて、なあ。と詰め寄れば岩村は不機嫌そうな顔で俺を一瞥して、またすぐに視線を逸らしてしまった。
何も言おうとしない岩村に、畳み掛けるように俺は口を開く。


「お前、きっかけがなんであれ選ばれて生徒会入ったんだぞ、俺だって、北条だってそうだ。みんな生徒達から選ばれてこの立場になってんだ。
…俺は辞めない、辞めるつもりなんてない。どんなにきつくっても最後までやってやる」

「…そういうとこだよ、俺はあんたは会長に向いてないと思うよ。あんたは学園のトップに立つべきじゃない」

「っ、お前…そんな風に思ってたのか」

「ああ。もうずっと前からそう思ってるよ。滝真、あんたは会長になるべきじゃなかった。本当は、あの時逃げ出すべきだったんだよ。
そうだな…あんたなんかより影也の方がよっぽど生徒会長に向いてるね」

「岩村…!」

言い合いがヒートアップして、ついには胸ぐらを掴んだ時だった。
どこからか聞こえてきた物音にお互い動きを止める。目だけで辺りを見渡すが周りに人影はない。気のせいだろうか、いや確かに物音は聞こえてきた。しかしそれがなんだったのか追求する気持ちにならないのは俺も岩村も同じだった。仮に生徒だったとして、一般生徒にこんな情けない言い合いをしている姿なんて見せたくもない。
すっかり冷めてしまった気持ちに掴んだ胸ぐらを離して距離を取る。岩村も大げさにあーあ、とため息混じりにぼやいてから立ち上がるとさっさと屋上を出て行ってしまった。

扉が閉まる。
後に残された俺はなんともやるせない気持ちのままで、岩村に言われた言葉が頭をぐるぐると支配していたのだった。


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