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「生徒会役員も大変やなぁ。どこに敵がおるかわからん、これじゃ夜道も安心して歩けんわ」

そう言って呆れたような顔でため息をつく保健医の武蔵野に眉を顰めた。
武蔵野はベッドで眠る戸際を哀れむような目で眺めているが、俺としてはまずはじめに片付ける問題が目の前にあるだろう、と響に視線を向ける。
しかし全くいつも通りの武蔵野の様子に、これではいつまで経っても話が進まない、俺から触れるべきなのかと意を決して口を開いた。

「まて、驚かないのか?これがあの響だぞ?」

これ、と隣に座る響の肩を掴む。あのもじゃもじゃ頭で瓶底眼鏡という典型的なオタクルックの響が、こんなことになってしまったんだぞ?そう簡単に受け流せるもんじゃないだろう。いやまさかこれが響だと気がついてない?…ありえるな。と一人で百面相をする。
そんな俺に目を丸める武蔵野と乾いた笑みを浮かべる響に、なんだこのメンツやりづらいな。と舌を打った。
しかし武蔵野はなんてこともないように小さく頷くと、茶目っ気たっぷりに首を傾げて言い放ったのだ。

「僕知っとったもん。ついにバレちゃったんやね、巡流もこれから大変やな」

知ってたって。衝撃的な言葉に続けて、ねー、とお互い顔を見合わせて言う2人に、やけに親密だなと顔を強張らせる。一体どういうことだ、武蔵野が知ってたって本当かと響を凝視すれば苦笑いを溢して誤魔化される。
この様子じゃ北条らへんも知ってるな…もしかして知らなかったの俺だけか?複雑な気持ちになりながらも、俺は何を言うでもなく口を噤んだ。


「その容姿じゃ危ないやろ、生徒会の特権使ってでもしっかり守るんやで。まあ、すでに騎士様が何人かおるみたいやし大丈夫やとは思うけど…」

「…生徒会は1人の生徒を特別に扱うことはない。…というルールだ」

「そのルール、破ってるつもりなくても実質破られてるやん。それって余計炎上するんちゃう?」

嫌味ったらしく言う武蔵野に返す言葉を見つからず奥歯を噛む。悔しいが武蔵野の言う通りだ。
生徒会としてはあくまでもルールはルールというスタンスではあるが、北条の行動を見る限り特別扱いだと言われてしまっても仕方ないだろう。北条の行動は生徒会としての行動ではなく一生徒としての行動だと言い張ることもできるがそれをどれくらいの生徒が納得するだろうか。今はあんなでも北条はれっきとしたランキング2位だ。現に御手洗は北条の行動が生徒会の総意だと認識していたし、そりゃ生徒たちはそんな説明じゃ納得はしないだろう。
これは…改めて困った、とため息を吐き出す他なかった。


「そんなことより快斗、大丈夫なのか…?」

「さっき一回、目覚ましたんよ。とりあえずは大丈夫そうやけど、なにしろぶつけたんが頭やしな。
念のため後で大きい病院行くよう話して、一応もう少し休ませてん」

「そっか、よかった…」

ほっと息をつく響の隣で俺も安堵する。
頭からの出血にぎょっとはしたが武蔵野によると少し額を切っただけらしい。出血も少ないし、それ自体は特に心配するほどのことではないようで安心するように説明されたのだった。

人の心配を他所に、寝息を立てながら気持ちよさそうに眠る戸際の寝顔に、次第に軽い怒りが湧いてくる。
事の次第を振り返ればあれはどう見たって響の言う通り痴情のもつれというやつにしか見えなかったし、真偽はともかくそういう事態に巻き込まれるとは生徒会役員として如何なものか。
前々から思っていたが戸際は少し意識が足りないのではないか。自分がどういう立場の人間なのか、わかってるのか?
そんな風に一人で悶々としていると、唐突に響が席から立ち上がり戸際のベッドに手をついた。


「快斗!」

戸際の名前を呼ぶ響につられてベッドに目を向ければ目を覚ました戸際が、ぼんやりとしながら何度か眠そうに瞬きをしていた。

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