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はやる気持ちを抑えながら、揉めている様子の審判の元までコートを進んでいく。ただでさえトラブルでざわついついた会場が俺の登場により、より一層騒がしくなっていくのに、つい脇目も振らずに出てきてしまったがまずかっただろうかとふと我に帰る。しかし倒れる戸際の顔が近づくにつれ鮮明に見えるようになると、やりきれない思いがふつふつと燻り、今更引き下がるなんて、出来なかった。

戸際の側で足を止めるが、気を失っているようで意識はない。その額には少しではあるが血が滲んでいた。
用意された担架に乗せられ、保健室へと運び込まれる戸際の姿を尻目に、揉めている様子の審判と植木に視線を向けた。


「一体どうなってる、何があった」

「あっ、か、会長」

「…ラフプレーがあったんだよ。それだけじゃない、あいつの体ボロボロだったろ。このゲーム、序盤からずっとわかりにくい嫌がらせばっか受けてた」

「嫌がらせ?」

「審判は今回の一回が悪質だってレッドカード出してたけど、なんで気がつかねーんだよ。むかつく」

あいつ浜野、と植木が指差す方向にいる男に視線を移すがその顔に見覚えはなかった。その男は不機嫌そうな顔をしていて、チームメイトでさえ寄せ付けない程に苛立っているのがここまで伝わってくる。

植木が苛立ち気に舌を打つとほぼ同時に審判が笛を鳴らした。どうやら試合は続行するようだ。
戸際が抜けてクラスSのチームは1人メンバーが減ったようだが、相手チームも浜野とかいう男が退場になったために1人いない状態での試合になるみたいで、どちらのチームも補欠をいれることなく試合は再開させるようだった。

不機嫌に試合に戻っていった植木を見送る。植木と戸際は仲が良かったもんな、友達を傷つけられて、しかもそれをただの退場で済まされて植木もやりきれないのだろう。
ボールを追いかけていく植木の姿から目をそらして、コートを抜けて校舎へ向かっていく浜野に視線を移した。何か一言いってやろうかと浜野を追いかけるように足を向けたが、追いかけたその先では信じがたい事態が起こっていた。


「おい、おまえ!なんだよ今の試合、なんで正々堂々戦わないんだよ」

「うっせーな、ぶつかっただけだろ?なんだよお前」

観客に混じって事の次第を見ていたのだろう。浜野の前に立ちはだかる響の姿に面食らう。
胸元を掴まれる響は浜野に比べると小柄なせいで今にもやられてしまいそうだ。嫌な汗が浮かび、自分が浜野に文句を言うどころではない。これは早々に、大事になる前に止めなければ、と騒ぎの方へ駆け寄って行く。

「おまえ、やめ…」

「雅史、もうやめてよ!周りの人に迷惑かけないで、戸際くんだってなんも関係ないって話したでしょ?」

「なる…」

浜野のことを雅史、と呼び食ってかかる声が、俺の静止の言葉を遮る。目を釣り上げ、顔を赤くさせて浜野に詰め寄る生徒が一名、その男には見覚えがあり目を見開いてあっと声を漏らした。

「知り合いか何かか?」

「ああ、まあ…」

耳打ちをするようにこっそりと訊ねる赤城に、言葉に詰まりながらも頷く。
なぜ、あいつが…。それはいつかの事件の被害者で、そして秋の義理の弟だという相良成だった。
小さいその体で浜野に抗議する成の姿に戸惑いを隠し切れないが、成の口から戸際の名前が出てきたことに、これは全て偶然ではないようだと悟る。2人の様子に口を噤んで、眉を顰めた。

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