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「次、バレーのメンバー!出番だから用意して〜」

周りに声をかけてから俺も行かなきゃ、と隣で準備をし出す委員長をがんばれよ、と見送る。委員長は頼もしく任せとけ、とウインクを残すと軽い足取りでバレーのコートまで体育館履きをきゅっきゅと鳴らしながら向かっていった。
バレーはこれで準決勝だ、あれだけ盛り上がってたんだから勝ち進めればいいんだけど。

ベンチに腰掛けながら盛り上がる体育館内を見渡して伸びをすれば、正面から歩いてくる岩村の姿に気がつき軽く手を振る。岩村は俺の存在に気がつくと手に持つペットボトルをぶんぶんと振りながらベンチの前までやってきた。

「おつかれ〜Aチームも健闘してるねぇ、いい感じじゃん」

「まーな。もう一つ競技残ってるんだがそっちの方が不安だ」

「あれ、掛け持ち?なに?」

「ボール掬い」

ボール掬いって!そう言って笑いながら隣に腰を落とす岩村に馬鹿にすんな、と一蹴した。聞いて驚くな、あの加賀谷もボール掬いだぞ。そう言ってやればツボにハマったのか爆笑する岩村に、釣られて笑ってしまう。

ペットボトルに入った麦茶を喉に流し込む岩村の額には汗が浮んでいる。先程まで試合だったのか、岩村はバスケのBチームだったがこちらも大変いい具合に勝ち進んでいるようで先の戦いで決勝に進出が決まったようだった。
俺の視線に気がついた岩村はにっと笑ってピースを作った。

「よゆーだね。決勝戦はSのA対Bかなぁー滝真が相手だと手加減しなくていいから楽しみだよ」

「そうなったらお前達に負ける気はしないな」

「そっくりそのまま同じ言葉返すよ!
次準決だよね、そろそろ出番じゃない?」

「ああそーだな、そろそろいくか」

頑張れ、と手を振る岩村に短く返事をする。バスケのコートはすぐ隣だ。ジャージの袖をめくりながらコートに向かえば既に前の試合は終わり、空いてるコートにチームメイトと対戦チームの奴らが何人か集まってきていた。
コートの端でボールをいじりながら怠そうに時間を確認する清原の姿を見つけてその近くに足を運ぶ。

「よう。随分怠そうだな」

「あー会長、おつかれ。もーそろそろいいんじゃなーい?よく頑張ったよ俺たち」

俺あんまり動き回るの好きじゃないんだよねぇ、と大きなため息を吐いてチームメイトを遠巻きに眺める清原に少し笑う。好きではないとは言うが苦手なわけでもないようで、清原は先程から随分とチームに貢献していた。
それを指摘すると清原は目を丸めて、さも可笑しそうに声を出して笑い始めた。

「そんなに目立ってた?やだなぁ目立つのはバスケ部に譲ってたつもりなんだけど」

「目立ってたかは知らないがお前のパス回しが正確なのはチームの奴らみんなわかってるだろーよ」

「なに俺褒められてんの?そんなこと言われると照れるねぇ。会長も流石の運動神経で感心しちゃうわ」

おっとそろそろ時間だね、と集まってきた面々を一瞥して清原は立ち上がった。次の対戦相手はクラスFのAチームだ。柄の悪いFの連中は中々手練ればかりのようで先程から余裕の雰囲気を醸し出していた。勿論Sだって負けてはいない。底辺クラスになんか負けるかと鼻で笑うSのチームメイトを油断するなとバスケ部の1人が諭している。

因縁とも言えるS対Fの試合にギャラリーは増す一方で、プレッシャーがかからないと言えば嘘になる。こりゃ清原が言ったように下手に手でも抜けばブーイングの嵐だろうな。清原も集まるギャラリーにそれを察したのか、珍しく苦虫を噛み潰したような表情をして参ったと言いたげだ。
ジャージを脱ぐ清原に、これはやるしかないな。と笑った。

「ほら行くぞ」

「はぁ、仕方ないなー。がんばろね」

決勝に上がれるのはSか、Fか。
歓声の中、コートに擦れる体育館履きの音が確かに目の前の試合への意気込みを、闘争心を煽っていた。

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