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俯き肩を寄せて、とても居心地の悪そうにソファにちょこんと座る響をじいっと見つめる。ちらちらとこちらを伺っては目が合うと急いで視線を外し、またこちらをこっそりと伺う。そんなことを響はずいぶん前から何度も繰り返していた。
その隣では紅茶の入ったマグを口に運び、澄まし顔でいる北条が。この二人の姿を見るのは随分久しぶりかもしれない。このやろう二人してつやつやした顔しやがって、俺のこの顔を見てみろ。今まで北条が捌いてた分が丸っと俺の仕事に追加されてんだ、背負いきれない程ではないが、一人黙々と仕事をしているとたまに全て放って逃げ出したくなるくらいにはきついんだからな、と長々と嫌味でも言ってやりたいが話が長くなると面倒なのでさっさと本題に入ろうと思う。ちなみに岩村は会議に代理出席、戸際は監査委員に書類提出に行かせている。
あまり俺たちに時間はないのだ。なんせもうすぐ第1学期最後の行事である、球技大会が近い。本来この時期に役員を説教のために呼び出すなんてくだらない事してる暇なんてないのを無理やりこうしているのだ。多少ピリピリするのも致し方ないだろ。
「最近のお前の行動は目に余る。一体どうなってんだ」
「はて、なんのことでしょうか。僕にはさっぱりわかりませんね」
「すっとぼけるな。お前の姿を見るのは実に何週間ぶりだと思ってんだ」
あとお前もな。と隣でおろおろする響にも目を向ける。大げさに跳ねる肩に、北条は表情を険しくしてきつく俺を睨みつけて来た。
あいも変わらず北条は響に対してぞっこんのようだ。さながら番犬、とでも言おうか。その様子がどうしてもおかしくってつい笑う。北条は眉をしかめると、噛み付くように何がおかしいんです。と声を荒げた。
「そりゃおかしいだろうよ。優等生の鏡みたいなお前がろくに仕事もしねぇ、その上何してるかしらんが授業もさぼりがちと来れば笑いたくもなる」
「必要な仕事はしていますし授業も僕には必要ない、教科書一冊あればいくらでも勉強できるし実際出来ています。
もし貴方自身の仕事量が増えたと感じるのならばそれはきっと今まで僕が、貴方の分まで手伝ってきたものでしょう。少し怠けすぎて来たんじゃありません?」
これを機に自分の分は自分でやってみては?と挑発するように鼻で笑う北条にカチンとくる。
まさかこいつ、中等部の時に到頭来なかった反抗期が今になってやってきたというのではあるまいな。
この閉鎖的な学園に押し込められていれば多少性の方向性が曲がったり、価値観がおかしくなったりしてしまうのは仕方ないことではあるとは思うが反抗期が今になって来るのは正直勘弁してほしい。
大変困った、というように一度大きくため息を吐き出した。
「いいか。生徒会に回って来る仕事に誰の分、とかねぇから。最終的に俺の判が必要なのはいい、俺が確認して最終決定を下す。それが会長の役割だからな。
だが同じ役員である以上仕事はみんなでやるんだ。変な御託を並べてないで、頼むから今までと同じように仕事をしてくれ」
「…申し訳ありませんが、今日はこの後用事がありますので僕はこの辺で…」
「用事だぁ?……あーまてまて、ならこれだけ風紀に届けてくれ。
明日からちゃんと来るように。響、お前もな」
「あっ、は、はい」
今日初めて声を聞いたような気がする。
あいかわらずの響の様子に北条は微笑む。その微笑ましいものを見るような目、場違いにも程があるだろ。たった今怒られたばっかだぞ?北条の様子に呆れるも、まあ今日はこの辺にしておこうと、件の風紀に提出予定の書類を北条に手渡した。
「それじゃ頼むな」
「はい。それでは」
響を連れて生徒会室を出て行く北条を見送る。
一体あれはいつ元に戻るのやら。小さくため息を吐く。
きっと明日から北条と響はきちんと生徒会室に来るようになるだろう。仕事をするかは知らないが。
このまま何事もなくいつもの日常に戻ればいいんだがな…。一抹の不安を覚え、それを誤魔化すようにティーカップに入った残り少ないコーヒーを全て喉に流し込んだ。
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