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他愛ない話をして、すっかり窓の外が暗くなる頃。
そろそろいい時間だな、と時計を確認して思う。面会時間ももう少しでおしまいだ。久しぶりに幼馴染と話す時間の流れはやけに早く感じた。
そろそろ帰ると秋に声をかけようとして、ベッドの枕の上辺りに、秋の名が書かれた名札が目に入った。名前の他に血液型や性別も書かれているそれに、ふと思い出す。

「あ…そういえば、お前って一つ下に弟いたか?」

「弟?なんでまた」

「この前ちょっとしたトラブルがあって。考えすぎかと思ったんだが…」

以前起こった事件を思い出す。入学式前日に起こったレイプ未遂事件、その被害者の名前は相良成。彼が狙われたのは「秋の弟だから」なんて、身も蓋もない話を聞かされてからというもの、時間が解決した今でも、どこか胸に引っかかって燻り続けていたのだ。

「お前に弟っていなかったよな?」

「あー、義理の弟ならいるぞ。分家の子で、本家のうちに数年前に養子としてきたんだ。俺がこんなだから不安になったんだろ」

「養子…義理の弟か、名前は?」

「成、ひとつしたで星渦に通ってるよ」

ああ、やはり。そうだったか。
興味もなさそうにそっぽを向いて話す秋に返す言葉が見つからず黙り込む。そんな俺の様子に気がついても敢えてなにも聞かない秋に、俺は非常に情けない気持ちでいっぱいだった。
血が繋がっていないとはいえ、家族が、弟が危ない目にあったのだ。秋は事の詳細を知る権利があるし、黙ったままではいけないだろう。どう切り出していいか分からず、言葉を選ぶ俺に秋は、なんでも見透かしたような笑みを浮かべた。

「いいよ、別に話さなくて。俺は学園に通っていないから詳しくは知らないし別に義弟が嫌いなわけでもない。でも、興味もないんだ」

「興味ないって…仮にも家族だろ」

「…まっ俺はお前が元気にやってくれてればそれでいーや」

こうやって忘れずに会いにきてくれるしな。そう言って笑う秋に俺は何も言えなかった。
秋は本当にそう思ってくれているのだろう。身体の弱い自分と、自分の代わりに跡継ぎ、と貰ってきた養子である義理の弟。昔からの幼馴染の俺、秋にとって俺の優先順位は昔から高かったし、俺にとっての秋もそうだったはずだ。お互いがお互いを必要としていたし、一番お互いを理解していた。それは今でも、変わらない…だろうか、それはいまいちわからないけれど。

「…さっさと体調回復させて学校こいよ。秋がいないとつまんねぇ」

「ははっ、わかったからもうすこし待ってろや」

パイプ椅子から立ち上がる。椅子の軋む音が病室に響くがそれを煩いと言われることも、話し声がでかいと静かにしろと言われることもない。個室のだだっ広い空間に秋は一人きりでいるのだ。
気を使わないで楽かもしれないが、少しさみしいかもしれないな。広い病室を一度見渡して、それじゃあな。とすこし寂しげな表情の秋に微笑んだ。


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