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「まあ他の親衛隊はあるみたいだけど、うちはあえて繋がりを持たないようにしてるんですよ」
「あえて?なぜだ、繋がりがあれば色々とプラスなこともあるんじゃないか?」
「まああるだろうね、現に他は親衛隊同士で情報を共有するから何かと効率もいい。それに比べてうちは入ってくる情報もおっそいし他の親衛隊の状況なんて全くわからない。結構大変なんですよ、会長の親衛隊って」
「…なら他の親衛隊と繋がりを持てばいいだろ」
わざわざ苦労する道を行かなくたっていいだろうに。情報を共有し、親衛隊の活動効率をあげればいい。そうやって続けて言えば、ため息をつき呆れたような視線を向ける赤城。その仕草がなんだか馬鹿にされている感じがしてむっとした。
「あんたがそれを言うかね」
「…どういう事だ」
「仮にもあんたはランキングナンバー1の会長様だ。その下のものがなぜ他と馴れ合う?
ナンバー1の男の情報や近況を軽々しく流すとお思いか?俺たち親衛隊にも誇りってもんがあるんだよ」
小説を閉じて、珍しく怒ったようにそう話す赤城に言葉が詰まった。まさか、ここまで考えているなんて思いもしない。親衛隊の隊長なんて適当にこなしているだけかと思っていた。いつものふざけた様子の赤城しか知らない俺は酷く戸惑った。
「他の親衛隊からはそりゃ媚びるように、時には攻撃するようにして繋がりを求められる。それでも全てを跳ね除けて俺たちだけの力で浅葱、お前を守り助けているんだ。
こんな事、お前は知らなくてもいいと思ってる。こちらが勝手にやっていると言われてしまえばそれでおしまいだしな」
「そんなこと、思わない。…いつもありがとう。だが、俺にそこまでの価値はないんじゃないか?」
素直に礼を言うが、俺はそんな大層な扱いを受けるほどの人間だろうか。たかが顔が良くて少し勉強と運動が出来、家柄がいいだけの男だ。そんな事でランキング1位になってしまって生徒会の会長なんて大層なものまで請け負っている状況なだけだ。本当の俺はそこまで出来た人間じゃないのに、何人もの人間を従わせるなんて。そんな俺の戸惑いを感じ取ったのか赤城は黙って俺を見つめている。
「俺は…そんなに立派な男じゃない。それに、俺の下についたって何も返してやれない」
「…珍しい事もあるんだな。自分のこと卑下するなんて」
「そりゃたまにはあるよ」
笑う赤城に苦笑を漏らす。
赤城はソファから立ち上がった。
「たまにでもいいから隊員に顔見せて、少し会話でもするだけで全然いいんだ。それだけであいつらチワワ達は喜ぶよ」
「それだけでいいのか?」
「なんせ、生徒会会長親衛隊ですから」
そう言って微笑む赤城に口を噤んだ。
正直言って今までは親衛隊なんぞ知らないしどうでもいいし好きにやってればいいと思っていた。前隊長には報告はいらないと全てを任せっきりだったし赤城もきっとその事があったから何も活動については話をしようとしなかったのだろう。
俺が知らないところでどれだけ助けられ支えられてきたのか。俺はそれを知るべきなのだろう。彼らと話をして一体どんな事があってどんな思いで俺の親衛隊に入っているのか、聞くのが一番感謝の気持ちを表せるのだろう。
立ち上がり、背を向けて扉に手をかける赤城をじっと見つめる。
もしかしたら赤城は俺に何かを気がつかせたかったのかもしれない。役員たちが仕事をしなくて、参っている今だからこそ教えたかったのかもしれない。
俺を支えてくれる人間はいるのだと、きちんと見ている人間はいるのだということを。
ならば、俺は礼を言わなければならない。
「ありがとう、赤城」
「いいえ、あなたの親衛隊の隊長ですから」
貴方を守るのが俺の役目です。
一礼をして微笑む赤城は本当に俺の事を慕う親衛隊隊長のように見えて、言葉を失う。
赤城はそんな俺を見透かしたようにふっと笑うとそれでは、と一言だけ残して生徒会室を出て行った。
1人残された生徒会室でふと、俺は今誰と話をしていた?と軽く混乱したのは、仕方ないだろ。なんたってあの赤城と普通に話をして軽く怒られたのだから。なんだかおかしくって、耐えきれずに声を出して笑う。部屋を出たすぐそこで赤城が同じように笑っているのを俺は知らない。
ああ、俺も帰ろう。また明日赤城にコーヒーでも入れてもらって仕事を進めればいい。
不思議と穏やかな気持ちで、自分の椅子に深く腰をかけた。
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