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「それで、これね」
ポケットからUSBメモリを取り出す委員長に礼を言う。自身の机の上にあるパソコンにそれを挿して起動を待つが、その間委員長はおにぎりを口に運んでいた。
幸運なことに生徒会室には誰もいなかった。もしかしたら仮眠室あたりに北条が転がってるかと思ったがそれも杞憂に終わりホッとしたのもつかの間。散らばったままのトランプやわけのわからないおもちゃが転がっているのを発見してしまった俺は何もなかったと自分に言い聞かせてその扉を閉じたのだった。
委員長は片手におにぎりを持ったままマウスをいじるとこれを見て、とファイルをひとつ開いた。
「だいぶ昔の写真なんだけどね」
「これは…」
煌びやかな会場、5.6名のスーツやドレスを纏った大人と小さな男の子と赤ん坊がそこには写っていた。
紺色のドレスを纏った綺麗な女性が赤ん坊を腕に抱き、小さいながらも正装をした男の子がスーツを纏い厳つい顔つきをした男性の手を掴んでいる。
その後ろでは髭を生やした男性や初老を迎えた男性が肩を並べてカメラに笑顔を向けていた。
「これ、加賀谷の会社の記念パーティー」
厳つい顔をした男の顔は心なしか加賀谷に似ていた。なるほど、そうしたらこの小さな仏頂面の男の子が加賀谷だろうか。では、隣の女性に抱かれている赤ん坊は…
「そ。こっちが加賀谷で隣の赤ちゃんが響くん」
「本当に兄弟だったのか…」
「まあ一緒に過ごしたのは加賀谷が4歳くらいまでだったみたいだけどね。その頃に両親が離婚、加賀谷は知ってるみたいだけど響くんはどうだろ、もしかしたらお兄ちゃんがいるってことも知らないんじゃない?」
「そうか…にしても、似てないなあいつら。響に関しては目の色も綺麗だったが加賀谷には似ていないし」
「おばあちゃんがイギリスだかどっかの人みたいで、響くんだけ隔世遺伝ってやつみたい。それもあってお父さんは加賀谷を後継者にって引き取ったんじゃないかな」
なんとも複雑な家庭の話を聞いてしまい頭が重くなる。加賀谷と響は本当の兄弟で、だけど響はそれを知らないかもしれなくて。あの時食堂で加賀谷はどんな思いで響に絡んだのだろうか。そして今は、どんな気持ちで同じ学園に通っているのか。カチカチとマウスを音を立てながらファイルを開いていく委員長をぼんやりと後ろから眺める他なかった。
「知ってるかもだけど風紀の清原も二人の従兄弟ね。清原のお母さんが加賀谷と響くんのお父さんの妹。
それでこの学園の理事長が二人のお母さんの弟。つまり加賀谷兄弟にとって、清原は従兄弟で理事長は叔父さんということだね」
「随分ややこしいな」
「ちゃんと相関図もデータとして作っといたから、調べたら割と簡単に出てきたから後で確認でもして」
「ああ、ありがとうな。まさかここまで出てくるとは思わなかった」
「俺もだよ、面白いネタだけどもう少し温めておくよ」
簡単だとは言っているがそんなすぐ出てくるような情報でもないだろうに。まあ俺の知らないルートがあるのだろう、その気になればなんだって調べられるということだ。
USBメモリを抜いて渡してくる委員長にもう一度礼を言ってそれを受け取った。
「何か礼は…」
「いや、いいよ。近々面白いことが起こりそうで機嫌と調子がいいんだわ。今回のは俺からの普段のお礼だと思って」
そんじゃ、と立ち上がる委員長。
時間はすでに昼休みが終わる10分前だ。俺もさっさと飯を食べてやる事をやらなければ。
扉を開けて手を振る委員長に軽く振り返す。そうして生徒会室を出て行くのを見送って、息をついた。
「響と加賀谷…響が母方の旧姓、か」
母と別れ暮らしてきた加賀谷に想いを馳せる。あんな男でも寂しさを感じたり、苦労をしてきたのだろうか。…これからは少し優しくしてやろう。
ソファに身を沈ませてふとそんなふうに思うのだった。
「そういや、委員長…佐野っていうのか」
何かこんがらがる頭の中で逃避するように口から落ちたまったく場違いな独り言は、一人きりの室内に消えていった。
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