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春の終わりを感じさせる暖かい風が頬を撫でた。
屋上から見える景色は、歩いて眺める道の景色とは違って青々として見えた。夏の訪れを感じるには少々気が早いかもしれないが、春が過ぎていくこの風。これを初夏と呼んでいいのではないかと思う。教室にこもってるのは勿体無いほど爽やかな天気にゆっくりと瞳を閉じた。




「―…滝真?」

俺の名を呼ぶ声に意識が呼び戻されゆっくり目を開ける。気だるい体と重たい瞼にぼんやりとする、どうやらうたた寝をしていたみたいだ。どれくらい時間が経っただろうか、30分くらいか…いや5分、3分かもしれない。しかしそれを感じさせないほどの充実感、充足感に身も心も軽くなったようだった。

「生徒会長が堂々とおサボりとは大したもんだな」

「雅宗。お前待ちだよ」

くんのがおせぇ、と上半身を起き上がらせながら言う。固いアスファルトの上で寝転んだせいで身体はバッキバキだ。よくこんな場所で寝られるな、とすぐ隣に腰を落とす雅宗にため息混じりに言ってみせれば雅宗は声を出して笑った。

「そりゃ仮眠室まで設けられてる飼い犬にはアスファルトは合わないだろーな」

「…飼い犬はやめろ」

「悪い悪い、嫌味じゃないから怒るな」

「むしろ嫌味にしか聞こえねーよ」

火のついてない煙草を咥えながら笑う雅宗は胸ポケットからライターを取り出すと音を立てて煙草に火をつけた。
一口目を大きく吸い込み、吐き出す。燻る紫煙が風に吹かれて掻き消されるのをぼんやりと眺めて、はっとする。
役員の前で堂々と吸うな、といつもの恒例と化している小言を言えば笑って誤魔化された。ここまで毎回同じやりとりだ。雅宗は俺を相手にしない。別に生徒会の役員として見てほしいわけでも意識してほしいわけでもない。ただの友人として変わらずいてくれる雅宗には感謝しかないが建前上目の前で煙草を吸われるとまずいことになるのは雅宗もわかっているはずだ。それをこの男は。

「…ほんと、お前なぁ」

「まあまあ。それで?何か用があったんじゃねぇの?」

「…まあ、用っていうか。たまには話しに来ただけだ」

「ふーん?最近の生徒会は芳しくないのか?」

そう言って目を丸める雅宗に、まあそんなところだと空を仰ぐ。
雅宗が俺を生徒会長だと扱わないように俺も雅宗を、生徒会の対抗組織である帰宅部のメンバーとは見ていなかった。一友人として対等の関係であり、そんな関係だからこそ俺は彼に他の誰にも言えない、自分が溜め込んでいる愚痴を言えてきた。
今回だってそう。見上げた雲ひとつない晴天が、俺の心のモヤモヤを吹き飛ばしてはくれないかと、丁寧にひとつひとつ話し始めるのであった。

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