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「なんでお前が加賀谷といるんだ」

臆することなくまっすぐに俺を見つめる晴に情けなくも声が震える。
晴が何か問題でも起こしたのか。それともまた別の理由でもあるのか。
思いがけない組み合わせの登場はただただ不穏な想像を掻き立てるのみで、それを紛らわすために気丈に声を張ることしか出来なかったのだ。そんな俺の様子に気がついたであろう加賀谷は眉をしかめるとなんだ、と声を低くして話しはじめた。

「お前とこいつは兄弟だったろ。その様子だとなにも聞いてないのか」

「…なんの話だ」

「浅葱晴、新しい風紀委員だ。今回邪魔しに来たのは挨拶のためだ」

「なっ?!風紀って…本当か、晴?」

加賀谷から突如聞かされた信じがたい話に言葉に詰まりかけるが、それをぐっと飲み込んで晴に視線を向けて真偽を問う。そんな話、いきなりすぎる。到底信じられるものではない。しかし加賀谷は冗談を言うタイプでもないのも重々承知している俺の胸中は破茶滅茶なことになっていた。
晴は粛然とした態度で俺を真正面から射抜くよう見つめると小さくうなずく。その姿が俺の知る弟の姿とは大きくかけ離れていて、戸惑った。
晴は、こんなに大きかっただろうか。いつからあんな表情をするようになったのだろうか。いつのまにか実の弟が全く知らない男になってしまったように感じて無意識に奥歯を噛み締めた。


「委員長の言う通りだよ、俺は頼み込んで風紀に入れさせてもらった」

「自分から?…なんで、風紀に」

「守るためだよ」

晴は力強く、言った。
主語はなかった。しかしその有無を言わせない返事に俺は結局なにも言えなかったのだ。口を噤む、晴は少し笑っていた。


「少し仕事の話をしたい。晴、外で待機してろ」

「はい。それじゃ、兄貴」

伝えることはこれでおしまいだと言わんばかり加賀谷は晴にそう命じた。従順に返事をし、小さく会釈して出て行く晴に結局俺はなにも声を掛けられないままだった。そうして生徒会室には俺と加賀谷だけが取り残されてしまった。

「…どう言うことだ。なんで晴がお前んとこにいるんだよ」

「俺が聞きたいくらいだ。お前の差し金だと踏んでいたが…どうやらそれは違うみたいだな」

そう言って腕を組み考え込むようにどこかを睨みつける加賀谷。深刻そうなその表情に一体なにを考えているのか、漂う不穏な空気に唇を噛み、やってられるか、と書類を突き出した。

「わけわかんねぇ。これもって仕事に戻れよ」

先ほどまとめた書類には変更点が記されている。それから空き教室の見回り強化の件についてのメモも記してある。それを受け取る加賀谷は、さっと目を通して頷くと俺に背を向けて扉に手をかけた。

一体どうなってるんだ。晴の行動に対して加賀谷は何かを察している?晴には何か思惑があるということなのか?出て行こうとする加賀谷の背を見つめ思いつく限りの疑問を問いただそうか、呼び止めようと手を伸ばすが何を聞くというのだ。全て俺の憶測でなにもわかっちゃいないというのに、結局言葉が見つからずに躊躇する。
加賀谷は不意に振り向くと怪訝そうに眉をひそめた。

「なんだ。何か言いたいことでもあるのか」

「…いや。…晴を、よろしく頼む」

「…あいつ、気をつけた方がいい。お前に見せてる弟の顔はただの一面だと思っておくべきだな」

「は…?一体何を、」

視線が絡まる。加賀谷が真剣な眼差しで俺を見つめるせいで何か言ってやりたいはずなのに、何も言葉が見つからない。
本当に、なんだってんだ。言いたいことを言うだけ言うとドアノブを回して、振り返らずに部屋を出て言ってしまった加賀谷。音を立てて閉まる扉に、力が抜けそのままソファに腰を落とした。

「弟に対して気をつけろって、なんなんだよ…」

先ほど晴に感じた一瞬の違和感。加賀谷はそのことを言っているのだろうか、…わからない。
晴が風紀に入った。そして加賀谷は気をつけろとわざわざ忠告をしてきた。それがどう言う意味なのか、1人ぐるぐると考えるが何も答えは見つからない。ただ、俺の知らないところでなにかが起こっているのか、それともこれから始まるのか。それだけはなんとなくだけれど、わかった。

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