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『昨年の歓迎会では怪我人が18名、小さなかすり傷から出し物の欠陥、不手際による事故での怪我です。中には喧嘩なんてものもありました、今年は風紀も見回りを増やすので新入生も在校生もルールを守って楽しんでください、風紀からは以上になります』

マイクの電源を切る音とともに体育館内が拍手でいっぱいになる。飄々とした態度で壇上を降りていく風紀委員の植木の姿に今年は普通だな、と去年の風紀のスピーチをふと思い出した。確か去年は清原が壇上で話してたがそれはそれは、どこかのバンドのライブかのような盛り上がりだった。意外にも清原はMCとか向いてるんだろうなと思いつつも同時になぜあの男は風紀なのかと疑問にも思ったのは鮮明に記憶に残っていた。
植木のコメントは風紀らしくていいな。生徒会は結局見つからなかった北条の代わりに岩村がばっちり決めていた。『今年は空き教室は施錠してあるから連れ込めないよ〜健全に楽しもうねぇ!』歓声とともに全校生徒の前で言ってのけたコメントはがっつり下ネタだったのだが。

「それにしても、副会長どこに行ったんですかね?」

こそっと話しかけて来る戸際にああ、と相槌を打つ。俺の席の隣、誰も座っていない空席は元は北条が座るはずだった場所である。新品同様の椅子は流石金持ち学園といったところか、綻びや汚れなどは一切見当たらない上に座り心地も抜群に良い。そんな空席に視線を落としてふと最後に見た北条の姿を思い出す。それぞれの出し物の様子を最終チェックも兼ねて見回りに出たがその時は特に雑談も交わさずに業務的な話をしただけだった。そういえばたまに立ち止まったり、椅子に腰かけたりしていたな。もしかして。

「…あいつ、具合悪そうにしてなかったか?」

「え、副会長がですか?いやぁちょっと気がつかなかったですね、」

気のせいだろうか、記憶の中の北条の顔色が良くなかった気がしたのだが。北条の体調が悪そうだったかどうかは思い当たらないようで戸際は唸っている。不意にその唸り声と共にポケットの中の携帯が震えた。伝わる振動に北条だろうかとこっそりとディスプレイを確認すれば案の定である、画面に表示された名前とメッセージに視線を滑らした。連絡が取れたことにひとまずは安心だとほっと息をつくも読み取ったメッセージ内容に口を結んでやはりかと息をつく。すぐ隣に座る戸際の名を呼んだ。
1度目は司会の声が重なり聞こえなかったようだが2度呼ぶと戸際は徐ろにこちらに視線を向けるとその丸い目をさらに丸めてこてん、と首を傾げた。

「北条から連絡が来た」

「あ、なんてですか?」

「貧血で保健室にいるらしい、寝てたみたいで連絡できなかったすまんだと」

案の定か。あちゃあ、と口を開ける戸際に本当俺も北条もつくづくタイミングが悪いな、と高い天井を仰いだ。その様子に気が付いたのか戸際の隣に座る響が戸際ごしにこちらに視線を投げ首をかしげている。それに気が付いた戸際はこそこそと耳打ちをして、更にその二人に気が付いた岩村が会話に加わっていた。
そこまで大きな声ではないが耳障りな3人の話し声が耳につく。ふと空席であるはずの反対側の隣から視線が刺さっている気がした。

「?」

「うるせえ」

植木だ。不機嫌そうなしかめっ面と鋭い視線で俺を突き刺し、遠慮のかけらもないセリフを吐き出した。風紀と生徒会は舞台上に上がる頻度が高いために毎度会場脇に特別席が設けられる。そのため席が必然的に隣同士なのだが、この席順はもう少し考えられなかったのかと思う。この配置にしたやつは配慮が足らんだろう、いくら北条が欠席するのが確定していなくとも俺に敵対心むき出しの風紀の植木をわざわざこの位置に持ってくるとはなんとも愚か、俺だったらまずこの配置は避けるね。
下の学年である植木に直球で文句を言われたことにむっとするが確かにうるさいのも事実。会長である俺がしっかりしなければならない、と…

「…っち、悪かったな。お前ら、うるせえぞ」

むかつく気持ちを押し込んでじゃれる3人に口頭で注意をすればふん、と興味をなくしたように正面を向く植木に口元がひきつった。岩村の能天気な返事が聞こえてきてつくづく俺も苦労してるよな、と誰も慰めてくれない自分自身を、こっそりと自分で慰めるほかなかった。

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