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「ついにこの日が来てしまったか…」

腕を組み神妙そうな顔つきの岩村はぼそりと口の中でつぶやく。その視線の先には提灯のぶら下がる廊下に目をキラキラと光らせる響がいた。
龍生!そう弾むように岩村の名を呼ぶ響に、岩村の口元はにへらと緩んだのを俺は見逃しはしなかった。

「めぐる、あんまりはしゃぐと転ぶよ」

「転ばねえよ!なあ、この提灯ひとつひとつに名前とメッセージ書いてあるのすごくね?!龍生も書いたのか?」

「めぐるは転入して来る前だったからね、俺も書いたよ〜。学園平和」

「えっなにこれ願い事かくの?新入生に向けてのメッセージじゃねえの?てか学園平和って!」

緩みっぱなしの顔でよしよしと響のもじゃもじゃ頭を撫でる岩村に阿呆か、とため息をつく。だらしない顔しやがって、でれでれじゃねぇか。

先ほどの岩村ではないがついにこの日が来てしまった。本日は学園一大イベントの新入生歓迎会である。
各部各委員会でそれぞれ出し物を用意して新入生はそれを見て回るというものだ。文化祭がクラスメインだとすれば歓迎会は委員会部活がメインのイベントである。廊下にぶら下がる提灯に確かこれは書道部の出し物だったか。だいぶ前に発注されたとんでもない数の提灯とひとクラス分の筆ペンを思い出して、今年もだいぶ気合が入っているなと思う。この出し物でどれだけ部員が集まるかが掛かっているのだ、更に歓迎会後のアンケートにて票数の多かった部活や委員会には特別に部費の賃上げも企画してある。そりゃ気合も入るわ。

「会長ー!会場の方準備オッケーです!」

「戸際、わかった。北条はどうした?」

奥から駆けて来た戸際は俺、岩村、響に視線を移して首を傾げた。その顔は北条の居場所を知らない顔だ。おかしいな、先ほど戸際の様子を見て来ると言って体育館に向かったはずなんだが。

「入れ違いじゃない?そろそろ俺たちも会場に向かった方がいいと思うんだけど」

「そうだな…連絡入れておくか」

司会は放送委員会だがすぐに生徒会と風紀から一言ずつコメントする場が設けられている。
こんなところでもたついてる暇はない、確か今日は北条がコメントを発表する予定だったが別に代役として岩村を投入してもかまわないし問題はないだろう。
歩き始める岩村のすぐ後ろを戸際と響が話をしながらついていく。三人の後ろ姿を眺めながら、ポケットから携帯を取り出して一言北条にメッセージを送りつけた。

「会長?行かないんですか?」

「ああ、いまいく」

ディスプレイに表示された送信完了の文字。携帯をポケットにねじ込んで、前を歩く三人に向けて歩き始めた。

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