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「・・・では最後に生徒会から。先日も報告した通り、ここ最近学園内でのトラブルが増加している。もちろんこれを放っておくつもりはないし生徒会としては何よりもこの問題に重点を置き早期解決に向けて尽力していきたいと思っている」

カーテンが閉まりきった教室でそれぞれの委員会や部活のトップである生徒が円になるように席につきジっとこちらを見つめている。その中の一人、鋭い目で睨み付けるよう見つめる男が、持っていたペンを机の上に置きゆっくりと席から立ち上がった。

「生徒会の意見はわかった。ならば具体的に、なにをどう尽力していくつもりだ?そこまで言うのならなにか案があるんだろ」

皆の視線が一斉にその男、加賀谷影也に向く。実質、学園高等部トップである生徒会の唯一の対抗勢力でもある風紀委員会の委員長である。煽るようなそのセリフも彼からしてみればただの疑問なのだろうがつくづく勘違いされやすいであろう人間である。

「まずこの場で問題提起をして、何かいいアイデアがあれば積極的にそれを実行できる環境づくりをしていく。そのための出費や時間などは惜しまないつもりだ」

「具体例はねぇんだな。まあいい、なら風紀は見回り人数を増やすか」

意外にもすんなりと話を受け入れ、自らも話に乗っかる加賀谷に頷く。良いものはいい、悪いものは悪いという。そういう男なのだ。

「ああ、そうだな風紀は見回り強化を頼む。他に意見や案がある奴はいるか?」

「新聞部と広報部、あと美術部でポスター作りだとかそう言った類のものを配布するのは?」

そう提案するのは俺のクラスの委員長だ。今この場では新聞部部長、といった方が的確だろうか。彼のアイデアに美術部と広報部の部長が頷いてる。特に異論もなさそうだし何よりわかりやすい。そこに見回り強化中、などの文言も書けば効果はだいぶ上がるのではないだろうか。特に異論もなさそうなのを確認して手元の書類にペンを滑らした。

「ああ、いい案だな、ぜひ頼んだ」

「あとはそれぞれ委員会、部活で使った教室は施錠するのも手ですよね」

「ならば教師には鍵を渡して移動教室も徹底するべきだな。風紀もそれでだいぶ効率が上がる」

「今月の事件数と先月の事件数を可視化するのはどうでしょう」

「トラブルを回避するものではないけど、保健委員会で相談室みたいなこともすればアフターケアできます、ぜひ実行していきたいです」

ならばあれも、これもと次々に案が出て意見が飛び交っていくのを手元にある書類にメモを書き残していく。よかった、これが実行されれば学園内のトラブルはかなり軽減されるだろう。今回出た意見を書類にまとめ、後日各委員会各部に配布して各々で作業をしてもらう。それぞれで報告書をまとめて提出してもらえば生徒会の負担もそこまで大きくないし効率的だろう。このまま順調にいけばうまくいきそうだ。順調な滑り出しにほっと息をついた。

「本日はここまでにしよう。こちらで今日出た意見をまとめ、また後日招集をかける。
何か他に連絡のある奴はいるか?」

「風紀から一つ。親睦会が来週に迫っている、学園のイベントでも大きなものだ、何らかのトラブルは必ず起きるだろう。それぞれ出し物があるだろうが安全性が第一優先だ、各自入念なチェックと準備をよろしく頼む。以上だ」

「そうだな、あまり浮かれすぎずに節度を守って楽しんでくれ。それじゃあ今日はここまで、解散」




「加賀谷」

教室を出ていこうとする加賀谷を、ファイルを整理していた手を止めて呼び止める。振り向く加賀谷は一言なんだと返事を返すがその表情はどこか不機嫌そうに見えるのは俺の気のせいだろうか。がた、と音を立てて椅子を引き立ち上がる。気がつけば立ち止まる加賀谷と俺との間には妙な空気が流れていた。

「…あれから、響とはどうなってるんだ」

「響…巡流のことか。どうってなんだよ、何が聞きてぇのかハッキリしねぇな」

「何って…」

加賀谷の口から出てきた響の名前に目を丸める。思いがけないその呼び方に動揺で言葉に詰まれば加賀谷は面倒臭そうにため息を吐く。面白くなさそうなその態度に何故俺が気を使って話さなければならないのかとむっとするが話しかけたのは俺の方だ。ここで変に怒るのは筋違いだし先日食堂で起こしたトラブルを考えれば落ち着いて行動しなければいけない。ひとつひとつ言葉を選ぶように歯切れ悪くセリフを続けた。

「おまえ、食堂で響にちょっかいかけてただろ。あいつは今はうちの役員だ。手出しは許されないぞ」

「だからなんだ?いつからお前は他人の事情に首を突っ込むようになったんだ。それも、人のものを横から奪うようなやり方でな」

「は、?ちょ、…おい!」

まさかそんなに言われを受けるとは考えてなかった俺は、お前に話すことはない、そう続けていう加賀谷に返す言葉をなくしてしまった。なんとか絞り出た、というより咄嗟に出てしまった俺の静止の声も聞かずに加賀谷は背を向けて歩き始めてしまう。開いた口が閉まらない、廊下を振り返らずに進んでいくその後ろ姿に伸ばした手は行き場をなくしてそっと落ちていく。怒っていたのだろうか。それともただ煩わしかっただけか、加賀谷の反応に一人残された俺は戸惑いを隠しきれなかった。

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