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「あのっ会長!」

廊下に出て生徒会室に背を向け歩き出したところで、背後から声を掛けられた。
歩みを止めて、ぱたぱたと騒がしい上履きの音に振り向く。生徒会室の扉を後ろ手で閉めて、俺を一度確認してから小走りで追いかけてくる人物に目を細めた。

「どうした、響」

「会議前にすみません・・・雅宗先輩と知り合いって聞きました。俺、転校初日に同室者とトラブった時、たまたまあの人に助けられて、でも俺テンパってて碌にお礼も言えなくって・・・。」

「それに、あの時雅宗先輩が割って入ってくれてなかったらたぶん、灯とは仲良くなれてなかったと思うんです。だから、」響は言葉に詰まりながらも選ぶようにして伝えて来る。その口から聞き覚えのある名前が出て来たことにぴくりと眉を動かした。先ほども一瞬会話の途中で出てきた名前…佐藤雅宗、とは俺の数少ない友人の一人だ。

そうか、御手洗灯が響とトラブっていたのを雅宗が助けたということか。
そこから自分を襲ってきたはずの御手洗と友達になるというのは響の天性の才能といったところだろうか。なにがあったか知らないがそれには感心するものがある。

それにしてもあの雅宗が厄介ごとに首を突っ込むとは、いささか信じがたい。何かと義理堅い奴だし面倒見もいいがそれも身内や知り合いに限っての話。見ず知らずの響を助けるだろうか?目の前で後輩が悪いことをしようとしてるとなれば黙っていられなかったのか、どうにも腑に落ちない感じはするが、まあどうせいつもの気まぐれだろう。
まっすぐ俺を見つめる響にふっと笑い、そのもじゃもじゃ頭に手のひらを埋めさせた。

「悪いがあいつの居場所を知っているわけじゃないんだ。教室にもいないしさぼる場所も決まっているわけでもない。なかなかのレアキャラなんだよ。」

「そう、なんですか」

「でも、了解した。もし見つけたらよく伝えておくし、響。お前が生徒会に入った以上きっとこの先嫌でも雅宗と関わることになるだろう。心配しなくてもすぐに直接礼は言えるだろうよ」

不安そうな目をする響は俺の言葉を聞いて黙ってうなずいた。
響はまだ転入したてで知らないだろうがこの学園には風紀以外にも生徒会に対抗する組織があるのだ。
反生徒会組織―帰宅部。その全貌は計り知れない、どれくらいの部員がいてどれくらいの勢力があるのか。主にどのような行動をしているのかも、最終的になにを目的としているのかも全くの謎である。本当に、そんな組織があるのかさえも。はたして、戸際は帰宅部のことまで響に伝えただろうか。

「響。・・・気をつけろよ」

「会長、?」

分厚いメガネのガラスごしに、不安げに揺れる瞳がぼやけている。本当は深い青が太陽に映えるきれいな目をしているのに。身を守る為だろうか、理事長の甥ならば学園から身を守る術をそんな風に教わっていたって不思議ではない。
そんな野暮ったいメガネなんて必要のなくなるくらい平和な学園にしていなかければいけないのだ。そのためにどれほどの人間を巻き込もうと、どれだけ長い時間がかかろうとも。生徒会長になった俺にはその目的に向かって尽力しなければいけない義務がある。

俺にはまだまだやるべきことがたくさん残っている。
まだ何かいいそたうな響に一言それじゃあ、と背を向けてまるで逃げるようにその場を後にした。


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